18歳の大型犬 「問題児とここまでこれた」飼い主とともにカナダの大自然をゆっくり歩む
カナダのバンクーバー近郊にいるダルメシアンミックスの「オレオ」は、大型犬としては異例の18歳というご長寿。ハイパーな性格のせいか、かつて犬歯を抜かれて捨てられていた保護犬だった。そこへ飼い主になりたいと手を挙げたのが、大型犬を飼ったことのない恵子さん。「お母さんは絶対にあなたを諦めない」、未熟な飼い主とオレオは奮闘した。
一度は愛護団体に断られたけど
オレオと恵子さんが初めて出会ったのは、カナダの動物愛護団体(The B.C. Society for the Prevention of Cruelty to Animals、通称SPCA)の施設。当時50代、大型犬を飼いたいと思っていた恵子さんがオレオに出会うも、スタッフから「この子はダメよ。あなたには絶対に無理だから」と門前払い。
そうは言っても他の犬は決め手にかけた。とある夏の日、気晴らしに恵子さんと娘さんはペットショップへ行った。
「もし犬を飼ったらこんな首輪がいいね~なんて店内を見ていたら、ちょうどSPCAの保護犬たちがいて。というのは、こちらのペットショップでは生体販売が一切なく、1週間ごとの入れ替え制でSPCAの保護犬の家族募集をしていたんですが……。なんとそこにオレオがいたんです」
ふらっと立ち寄った場所で、奇跡の再会。恵子さんと娘さんは、すぐさまオレオと遊ばせてもらい、さらにオレオの詳細を知ることになった。書類に記されていたのは「とにかくハイパーな犬。暴れん坊。初心者には不向き。飼うならドッグスクールに必ず行かせること」。
当時4歳のオレオはとても活発で運動量が多く、うまくコミュニケーションがとれないと甘がみするクセもあった。
「たしかにすごかったんですよ。周りの物を蹴り飛ばしてがんがん走り回って、なるほどね~という感じ。すごく楽しいけれど、娘と『ちょっとこれは無理だよね』って。あきらめてお店を出て車のエンジンをかけたんですが……」
その瞬間、恵子さんの頭の中では、オレオと暮らしたときの“最悪の条件”がぐるぐると駆け巡っていた。いい条件よりも、悪いことが起きたときに自分が対処できるかどうか、それをクリアできれば大丈夫だろう、と考えたからだった。
「帰れないよ。お母さん、やっぱり連れて帰ろう」
「わかった。なんとかなると思う! 連れて帰ろうか」
犬用品を一式買い、オレオも家に連れて帰った。
「お母さんはあなたを諦めない」
ドッグトレーナーに教わるも、案の定オレオの散歩は超・大変だった。
「私が上手にリードできればいいのにそれができていないから、オレオが私を引っ張ったときにガッと引き戻してしまって。なぜ引っ張られるのか分からないオレオは、反射的に私にかみ付くという状況が続いたんです。手は血だらけ、太ももはかなりかみ付かれて引きつれになっちゃったり、まっ青なあざになったりして。随分と苦労しました」
一番ひどい時は、道の向こうから小さな動物が来たとき。猛進するオレオ、恵子さんは顔面から転倒して歯がかけてしまった。その頃の恵子さんは、オレオにこう言っていた。
「絶対あきらめない、絶対離さない、お母さんがいるから大丈夫って、毎晩、毎晩、同じことを繰り返してました。私もつらかったけど、彼もつらかったと思う。コミュニケーションがとれずにオレオは私を噛んでしまったし、私だってかまれたら痛い。でもね、命を預かってるわけですから。それで手放すというのは、ダメじゃないですか」
オレオの過去はわからない。基本的なしつけはされていて人間を恐れないところをみると、おそらく野犬ではなかった。気になったのは、犬歯が4本なかったこと。「もしかしたら以前にもかみ付いて犬歯を抜かれたけど、直せず捨てられたのかもしれない。最初の飼い主に可愛がられてはいなかったのでは」と想像できる。
体育会系ではなかったのに… 毎日の散歩は2時間越え
オレオの日常は、朝は全力のボール投げや、ドッグランでの全力走を40分。夕方は海沿いの公園へ行き、ときに野生動物に遭遇するようなトレイルをほとんど競歩かマラソンかというスピードで合計1時間半~2時間弱歩く。バンクーバー近郊は天災がないこともあり、恵子さんとオレオはそれを10数年、毎日続けてきた。
「オレオはドジなところが可愛い」と言う恵子さん。運動神経抜群のオレオだが、海沿いのボードウォークから落ちたり、湖に飛び込んだはいいが溺れかけたことも。みんなびしょぬれになって帰ったのは、家族のいい思い出だ。
カナダでは安楽死が一般的
さて、気になるオレオの長寿の秘訣だが、特にないそうだ。18歳のいままで大病をせず、たまたま生命力がすごく強い健康体だった。
しかし今年の10月の終わり、ぱたりと食べなくなる日があった。とうとうこの日が来たのかと獣医に診てもらうも、オレオの内臓値は全部平均値。いまは「食べ物を変えながら、生き永らえている」と言う。
日本とカナダで大きく違うことがある。それは、カナダではペットの安楽死が一般的だということ。ペットの看取りをほぼしないそうだ。
「自力で立てなくなり、動けず、飲まず食わずになったら、獣医と飼い主が見極めて安楽死の日取りをします。動物病院で安楽死となり、火葬し、骨壺に入れられて帰ってくるのが普通。延命か、安楽死か選択するのは飼い主ですが、延命を選ぶ人はごく少数です。“その日”を決めたら、家族や友人を招いてお別れセレモニーをするうちもあります」
大切な家族である愛犬の“その日”を決めることに、日本人なら戸惑いを感じる人が多いと思う。恵子さんいわく「安楽死の是非については、いい・悪いではなく、その国の考え方やペットの向き合い方の違い」なのだ。
「私自身、その時を見極めるのは初めてなので、どのレベルのどんなタイミングなのか獣医さんに聞いたんです。そしたら『クオリティー・オブ・ライフ』という言葉が返ってきて。つまり、犬として犬の尊厳を守れる状態であるかどうかが見極め時だと。オレオの『クオリティー・ヒズ・ライフ』がなくなった時、終わりです」
もうがんばらなくていいよ
オレオは白内障で耳があまり聞こえないが、外へ出ると音を感じ、動物や草の臭いを嗅ぎながら散歩を楽しむ。深夜2時、オレオのおしっこのために外へ連れ出さなければいけないこともある。それでも、尻尾でわかるそのうれしそうな様子に、「ダメになるまで続けたい」と恵子さんは言う。
「昔はオレオの首根っこをつかまえて、お母さんは絶対にあなたを諦めない、もう二度と寂しい思いはさせない、一緒にがんばろうねって言ってましたが、いまはもう彼はがんばらなくていいんです。彼の人生のゴールに近づいていますから。そして、お母さんのその時が来たら迎えに来てね、と言っています」
恵子さんにはひとつだけ後悔していることがあった。それは「もう10年早く犬を飼えていたら、この先も保護犬を引き取れただろう」ということ。察するところ、そう思うのはオレオと泣いて笑った歳月があったからではないだろうか。
いまも一緒に生きているという結果が恵子さんに自信を与え、お互いに切磋琢磨(せっさたくま)した軌跡は、オレオと恵子さんの心に刻まれている。
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