数値規制は犬や猫の飼育環境を改善するためのもの 改善努力伴わぬ業者の主張は筋違い

チワワ
7歳まで繁殖に使われていたメスのチワワ。飼い主との出会いを待っている

 繁殖業者やペットショップが犬猫を飼育・管理する際の数値規制案を、環境省が10月7日に取りまとめた。これまで、劣悪な環境で飼育を続ける一部の悪質業者を、明確な基準がないために行政が適切に監視、指導できていなかった状況にメスを入れ、業者のもとにいる犬猫の飼育環境を改善することが目的だ。来年6月に施行される。

問題は犬の繁殖業者

 飼育ケージの広さや構造を具体的に規定し、メスの交配年齢や出産回数に上限を設けるなど、多岐にわたる規制が実現する。なかでも悪質業者の改善、淘汰に効果を発揮しそうなのが、職員(飼育者)1人あたりの上限飼育数だ。

 業者は一般的に、なるべく少ない人数で、なるべく多くの犬猫を飼育しようとする。その割合が適正値を超えれば、どんなに施設が立派でも、犬猫の飼育環境は劣悪なものとなる。

 これまで取材した問題業者の多くは、1人で30~50匹、なかには100匹以上もの面倒を見ていた。規制案では、繁殖業者は飼育者1人あたり繁殖用の犬は15匹、猫は25匹、ペットショップは販売用の犬は20匹、猫は30匹が上限となる。

 大手ペットショップでは既に対応できているところが多い。猫の繁殖業者も、環境省の線引きが25匹と甘めで、メスの出産回数も制限されないため、ハードルは高くないとみられている。

 問題は犬の繁殖業者だ。「被毛の手入れや運動させることなどを考えれば、1人で面倒を見られるのは5、6匹」という、単犬種にこだわる「優良」な業者も少なからずいる。しかし、はやりにあわせて多犬種を扱う業者では、これから家族やアルバイトを含めて、飼育者集めを迫られるところが多そうだ。

「繁殖犬が行きどころ失う」と主張

 このためペット関連の業界団体や一部業者らは、廃業や飼育数の削減に追い込まれる業者も出るとして「10万匹以上の繁殖犬が行きどころを失う」「そのぶん殺処分が増える」と規制案に反対している。

 だが、数値規制は犬猫の飼育環境を改善するためのものだ。業者には動物愛護法で「終生飼養の確保」を図ることも義務づけられている。改善努力を伴わないこうした主張は筋違いだろう。

 犬の価格は近年高止まりしている。オークション(競り市)での平均落札価格は10年前の3倍程度。コロナ禍でペット需要が高まった今年は例年のさらに2倍、20万円台に乗った。そもそも「定価のない商品」であり、人件費などのコストが増えても価格転嫁は難しくないのだ。

 もちろん、全国的な人手不足で飼育者集めがスムーズに進まない可能性は考慮すべきだ。環境省は、上限飼育数の段階的な施行は検討する必要があるだろう。

引退犬・猫を救う策を示すべき

 何より、繁殖から引退する犬猫はこれまでもいて、今に始まった問題ではない。規制の趣旨を理解するペット業界の一部では、繁殖から引退する犬猫がペットとしての「セカンドライフ」に順調に移行できるような仕組み作りが、既に始まっている。

 数値規制を盛り込んだ環境省令の施行までにはまだ時間はある。規制への準備を進めるとともに、業界をあげてどのように悪質業者を淘汰するのか、引退犬・猫を救っていくのか、その策を示すべきだ。それが利益をもたらしてくれる犬たち、猫たちに報いる道ではないだろうか。

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太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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