犬が家族の絆をつなぎ留める 北村匠海ら人気俳優共演作『さくら』は温かくビターだった
今回、ご紹介するイヌ映画は、直木賞作家・西加奈子の同名小説を映画化した『さくら』です。本作は、ある家族に起こった悲喜こもごもの物語を、時に日だまりのようにほのぼのと、時に痛々しいほどビターテイストに描く人間ドラマ。タイトルロールでもある「サクラ」役を演じているのが、タレント犬のちえです。
サクラがいつも家族のそばに
よく夫婦間で「子はかすがい」と言いますが、本作に登場する長谷川家にとってのかすがいは、犬のサクラだったかもしれません。サクラは家族の一員として、常に過不足ない心地良いポジションにいました。
長谷川家は、5人家族+1匹というごくありふれた家族構造です。学校の人気者であるイケメンの長男・一(ハジメ)役を吉沢亮が、兄をヒーローと慕う平凡な次男の薫役を北村匠海が、一を心から愛する末っ子の美少女・美貴役を小松菜奈が、朗らかな母・つぼみ役を寺島しのぶが、2年間も音信不通だった父・昭夫役を永瀬正敏が演じています。
まずは冒頭で、家を出ていた父が2年ぶりに家へ帰ってくることに。大学生の薫はその知らせを受けて、年の暮れに実家へと帰省します。薫は家で父と母、妹の美貴、愛犬のサクラと再会しますが、そこに長男・一の姿はありません。そこから、主演の北村さんによるモノローグによって、長谷川家に何が起こったのかが明かされていきます。
時間は、薫たちの幼少期までさかのぼり、飼い犬サクラとの出会いについても語られます。弱っていた小さなメス犬を拾い上げた美貴は、そばに桜の花びらを見つけ「きっとこの子、小さいから、桜の花びらを産んだんや」とつぶやき、子犬を「サクラ」と名付けます。仲のいい兄弟妹が、サクラを連れて家に帰る後ろ姿は、見ていてほっこりします。
やがて薫たちが思春期を迎え、それぞれに初恋や失恋など、ほろ苦い経験をしていきます。兄弟妹の間でぎくしゃくすることが起こっても、常にサクラだけはフラットなポジションにいて、薫たちに寄り添っています。そう、ある悲劇が起こった夜も、サクラはそばにいました……。
「ちえ」の絶妙なリアクションにご注目
メガホンをとったのは、『ストロベリーショートケイクス』(06)や『無伴奏』(16)の矢崎仁司監督ですが、この監督はヒリヒリした生々しい人間ドラマを紡ぎ上げる名手で、今回もエモーショナルな感情のうねりを、これでもかというほど焼き付けています。
ある出来事で、破綻(はたん)寸前になってしまった長谷川家。生と死の苦悩を乗り越え、家族はどうやって再生していくのか。北村さんをはじめとする演技派俳優陣が、それぞれに難役に挑み、観る者をくぎ付けにする熱演を見せています。もちろん、ちえもその一端を担っていました。
サクラ役を好演したちえは、CM「トータルハウジング『吾輩は犬である』篇」(15~)をはじめ、テレビドラマ「アキラとあきら」(17)や「監察医 朝顔」(19)などにも出演している売れっ子わんこで、劇中でも絶妙なリアクションを見せ、俳優陣をうならせたとか。
なかでも、夫の浮気をうたぐったつぼみが、卒業アルバムを出して問い詰めるシーンにご注目。サクラはテーブルの下から、アルバムをのぞこうとして、ひょっこりせり出すという、人間顔負けの名演を披露しています。
撮影現場でのちえは、常にアイドル的な存在だったようで、そのなじみ具合は、スクリーンにもしっかりと映し出されています。
折しもコロナ禍で、遠く離れた家族ともなかなか会いづらくなっている昨今ということで、酸いも甘いも含め、家族の絆を描く本作はじんわりと、いえ、グサリと心にくさびを撃ち込んできます。
演技派俳優陣と演技派犬が紡いだ珠玉の1作をぜひ劇場でご覧ください。
- 『さくら』は11月13日(金)より全国ロードショー
公式サイト
監督:矢崎仁司 原作:西加奈子「さくら」(小学館刊)
出演:北村匠海 小松菜奈 吉沢亮 小林由依(欅坂46) 水谷果穂 山谷花純 加藤雅也 趙珉和 寺島しのぶ 永瀬正敏ほか
配給:松竹
©西加奈子/小学館 ©2020「さくら」製作委員会
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