家に迎えた元野良の子猫 まったく懐かず悩む日々…ある日変化が

 家に迎えた元野良の子猫は警戒心が強く、何カ月も飼い主を威嚇しつづけた。「それでも一緒にいたい」。そんな思いで向き合い続けたある日……。

(末尾に写真特集があります)

保護した子猫にひとめぼれ

「保護した野良猫の譲渡先を探しているんだけど、お見合いしてみない?」。

 2019年9月。以前から猫を飼ってみたいと周囲に話していた花田さんは、猫の保護活動をしている職場の先輩に声をかけられた。

 聞けば先輩が保護したのは、“百戦練磨の野良猫母さん”と子猫3匹の親子。譲渡先を探しているのは子猫たちで、母猫は避妊手術後にリリースし、地域猫として世話をするという。

 勧められるがまま野良猫親子に会いに行った花田さんは、そこで“運命の出会い”をすることになる。

「子猫3匹のうちの1匹が、他の子の影に隠れておびえたようにこちらを見ていました。近づいてみると、キジ白模様のその子猫は、しっぽの先っぽがちょこんと白かった。それに気づいた瞬間、なんだかとてもいとおしくて、『この子にしよう!』と決めたんです。ひとめぼれのような直感でした」

花田さんが“ひとめぼれ”したという、キジ模様で先端だけが白いマオのしっぽ(花田さん提供)
花田さんが“ひとめぼれ”したという、キジ模様で先端だけが白いマオのしっぽ(花田さん提供)

 一人暮らしの賃貸はペット不可物件だったが、管理会社に掛け合うと、運良く飼育の許可が下りた。花田さんは、そのことにも運命的なタイミングを感じた。

“家庭内野良猫”と検索する日々

 花田さんは、家に迎えた子猫に「マオ」と名前を付けた。以前台湾を旅行した時、猫と書いてマオと呼ぶ地名を知り、その響きを気に入っていたという。

「マオは生後1カ月のオス猫でした。生まれてからずっと“野良のエリート”のような母猫と行動していたので、とても警戒心が強かった。当初、預かりボランティアの方からマオを兄弟猫と一緒に預かって、人なれさせてからの譲渡を提案されていたのですが、私は断ってしまった。元野良ならこんなものだろうと思ったし、その時にはもう、『マオと離れたくない!』という気持ちになってしまっていたんです」

 しかし、その判断は甘かったことを花田さんは思い知る。

「引き取って2週間、マオはケージの中の段ボールからこちらをうかがっていました。その後ケージを開放したのですが、今度はベッドの下やクローゼットに潜って出てこなくなり、私が家にいる間は一切姿を見せなくなった。なんとか近づきたくて餌やおもちゃで釣ろうとしても、少しでも距離を詰めれば激しく威嚇されました」

家に迎えてすぐ、キャリーからケージに移した瞬間が唯一マオに触れられた時だった(花田さん提供)
家に迎えてすぐ、キャリーからケージに移した瞬間が唯一マオに触れられた時だった(花田さん提供)

 引き取ってから1カ月が経過しても、マオの警戒心は薄まらなかった。

 保護した先輩によると、野良時代に猫嫌いの人に出会って邪険にされてきたことも、人間不信の原因かもしれないということだった。

「焦らず気長に向き合っていれば、そのうち慣れてくるよ」初めて猫を飼う花田さんに、周囲の人はアドバイスした。

 しかし、2カ月、3カ月と時間が経ってもマオの態度は変わらず、だんだんと相談相手の表情からも「懐くのは無理かもしれない」という気配を感じ始めたという。さらに花田さんを悩ませたのが、マオの粗相だった。

「まだ子猫なので慣れない場所への不安が強く、情緒不安定になっていました。深夜に私が寝た後でクローゼットから出てきて暴れ、トイレ以外でおしっこをすることが続いたんです。深夜に姿の見えない猫の粗相を掃除する日々が続き、さすがに心が折れ始めましたね(笑)」

 そんな時にネットで知ったのが“家庭内野良猫”という言葉だった。

「検索してみると、マオと同じような猫がたくさんいたんです。それでもみなさん、飼い猫を溺愛していた。それを見て私も、『もしこのまま懐かなくてもマオと、一緒に暮らしていこう』と腹をくくったんです」。

ケージにおいた段ボールから、花田さんの様子を伺っていた(花田さん提供)
ケージにおいた段ボールから、花田さんの様子を伺っていた(花田さん提供)

自分を見定めてもらう時間を

 花田さんは、保護活動をしている先輩や猫飼いの知人たちに、少しでもマオの居心地がよくなるようにアドバイスを求めた。

「私は猫を飼うのが初めてだったので、改めてアドバイスをもらうことにしたんです。すると、やってはいけないことも結構やってしまっていたことに気がつきました」。

 そのひとつが、頻繁に行っていたキャットタワーや猫トイレの配置換え。「猫が新しい居場所に慣れるまで、大きなものは動かさない方がいい」というアドバイスは、目からウロコだったという。

 また、「猫がこちらを見ているときは目を合わせてはいけない」と言われ、かまいたさから真逆の対応をしてしまっていたことを反省した。

「私がはじめから猫の飼い方を勉強していれば、マオはここまで心を閉ざさなかったかもしれない。かわいそうなことをしたと思いました。それからはとにかく、マオにとってこの家と私が安全だと理解してもらうことを意識したんです」。

 そんなある日、転機は突然訪れた。

「ダメ元で、マオの好物のウェットを出したお皿をひざに置いてみたんです。すると、恐る恐るひざに乗ってきて食べ始めた。もっと驚いたのが、そのまま背中に触ったら少しだけ気にしていたものの、威嚇することなく食事を続けたんです」。

 一度触れることができると、その後は急激に心を開いたというマオ。徐々に体に触れることにも慣れ、花田さんに甘えるようにまでなった。引き取ってから3カ月以上の時間が経った、12月の初めのことだった。

花田さんのひざに乗って甘えるマオ。数カ月前は考えられなかった光景だ(花田さん提供)
花田さんのひざに乗って甘えるマオ。数カ月前は考えられなかった光景だ(花田さん提供)

「マオと向き合うことで、自分も変われた」

 取材の最中、花田さんの体に擦り寄っていくマオの姿が何度も見られた。

「今ではものすごく甘えん坊で、抱っこも大好きになりました」。

 マオと仲良くなれたことで、それまでは知らなかったマオの新たな一面を発見することができるようになったと花田さんは話す。

「仕事で失敗した時や、辛いことがあった時、マオは『どうしたの?』という表情で側に寄り添ってくれます。猫がこんなにも人の感情に敏感だということを、マオと暮らして初めて知ることができました」。

 花田さんは、3年前に離婚を経験した。

「自分が子どもを持ち、親になる姿がイメージできなかったことで、自信を失っていました。そんな時に出会ったのがマオ。マオを引き取る時、母猫に『育ての親として、私が絶対幸せにします!』と誓ったんです。小さな命に責任を持って向き合わせてもらったことで、自分のことを見直し、自信を取り戻すことができました」。

猫との暮らしは、どんな関係でも尊い

マオは遊びに夢中になると口元に赤みがさしてくる(花田さん提供)
マオは遊びに夢中になると口元に赤みがさしてくる(花田さん提供)

「寝起きのマオは口元が白っぽいんです。でも、遊びはじめて元気になってくると、血色が出てきてきれいなピンク色になる。“家庭内野良猫”時代は顔をじっとみることもできなかったので、そんな変化を見ているだけで、かわいくてかわいくて幸せなんです」。

 7月で10カ月になるという、やんちゃ盛りのマオとの暮らしぶりをうれしそうに話してくれる花田さん。自身の経験から、保護猫が心を開いてくれず悩んでいるという人にメッセージをもらった。

「マオが心を開いてくれたのは結果オーライ。私も一度は“家庭内野良猫”として受け入れるつもりで腹をくくった。でも、その時も今も、マオへの愛情は変わりません。苦労はさせられたし、『頑張れば絶対大丈夫』とは言えないけれど、どんな関係でも、猫のいる暮らしは尊いですよ」。

 そう話す花田さんの視線の先には、キャットタワーに寝そべって、安心したようにくつろぐマオの姿があった。

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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