父の最期に寄り添った猫「さくら」 四十九日を過ぎて体に異変が

 10年来の付き合いとなる「家族」のことを紹介したい。我が家には9歳の猫、「さくら」「とら」「くま」がいる。唯一のメスであるさくらが今春、肺炎になって腎臓の機能も低下し、生死の境をさまよった。あるじの死が大きなストレスとなったらしい。

(末尾に写真特集があります)

兄「とら」と一緒に我が家へ

 さくらとの出会いは2011年の初夏。この年の春、先代の愛猫「まる」を亡くした母がペットロスとなり、地元の保護猫ボランティアの事務所を訪ねた。そこで母の腕にしがみついてきたのがさくらだった。

「この子には、お兄ちゃんがいるの。離すのはかわいそうだから…」と言われ、サバトラのオスももらうことにした。「兄はトラ柄だから『寅(とら)』。寅の妹なら『さくら』でしょ」と映画「男はつらいよ」にちなんで名付けた。

我が家に来たばかりのさくらととら
我が家に来たばかりのさくらととら

 2匹ともアレルギーがあり、いつも涙を流している。拭いても、拭いても涙の跡が消えない。いつも顔をなめ合ってきれいにしている。仲のいい「きょうだい」だ。

 同じ年の暮れ、墓参りに行った先で黒い子猫が足にまとわりついてきた。墓の管理者から「もうすぐ雪が降ります。連れて行ってやってもらえませんか」と言われ、「では、うちの猫をもらったボランティア団体に飼い主を探してもらいます」と言って引き取ったのが「くま」。尿管結石になり、もらい手が見つからず我が家に来て9年目を迎えた。

 高齢の両親は、孫のように3匹をかわいがってきた。とりわけ、さくらは甘えん坊で、父のひざの上が定位置だった。

ストーブの前で場所を取り合う3匹。くま(中央)は、やや控えめだ
ストーブの前で場所を取り合う3匹。くま(中央)は、やや控えめだ

猫「さくら」が危険な状態に

 4月上旬、さくらが食事をとらず、荒い息をするようになった。慌てて動物病院に連れて行くと、腎臓と肝臓の機能が低下し、肺炎を併発しているとのこと。血液検査をすると、かなり危険な状態だった。

「かなり数値は悪いです。最善は尽くしますが正直、良くなるかどうか…五分五分です」

 それから1週間、毎朝病院にさくらを連れて行き、夕方まで栄養と薬剤の点滴を受け、家では腎臓の薬と抗生物質をえさに混ぜてのませる治療を続けた。3日間は何も口にしなかった。4日目に流動食を一口だけなめるようになり、1週間が経つころにはカリカリを食べられるようになった。

 その後、注射と服薬治療が1週間続き、血液検査の結果、臓器の状態が正常に戻ったと分かったので、腎臓の薬をもらって自宅で服薬だけは続けている。大型連休に突入した現在、食事が待ち遠しくて催促するようになり、以前にも増して元気になった気がする。

点滴の跡が痛々しいさくら
点滴の跡が痛々しいさくら

父が息を引き取る瞬間もそばに

 さくらの主治医に「病気の原因は何なのでしょうか」と聞いてみた。「一概には言えませんけれど、気候の変化とか、ストレスですかね。何か思い当たることありますか?」。

 大いにあった。今年1月21日、父が93歳で亡くなった。在宅での看取りの折、最後の三日間は、私と母が交代で眠り父を見守っている間、ずっとそばにいた。息を引き取る瞬間も寄り添った。納棺師が体を清めている間、心配そうに見ていた。さくらなりの追悼をしていた気がする。

 さくらは、デイサービス施設のスタッフが父を迎えに来ると出迎え、見送り、ケアマネジャーに甘えてコミュニケーションを深めてくれた。優秀な「介護猫」だったと思う。

優秀な「介護猫」さくら
優秀な「介護猫」さくら

 看取り、葬儀の前後は医師や看護師、ヘルパー、葬儀業者、僧侶、親類縁者など多くの人が我が家に出入りし、ずっとバタバタしていた。オス2匹は平然と遠巻きに見ていたが、さくらはおびえた目で出たり入ったりする人の流れを見る一方、家族にはなぜか甘えず、緊張した面持ちでウロウロしていた。

 父を失った悲しみか、一連のドタバタに対する心労か。いずれにせよ2、3月、父の死から四十九日の法要までの間に起こった変化が、さくらにストレスを与えていたに違いない。その疲れが一気に出たのだろう。桜が咲くころ、さくらの体は悲鳴を上げた。

さくらちゃん、お疲れさま

 私も母も忙しさから、さくらだけ食事の量が減っていたり、便の量が減っていたりすることに気がつかなかった。ぐったりとして、起き上がれないほど弱ったさくらの姿を見て初めて、異変に気づいたのだ。「無理させてごめんね」と言わずにはいられなかった。

父の枕元で見守るさくら
父の枕元で見守るさくら

 先日、父が世話になったデイサービス施設に行くと、スタッフから「さくらちゃん、どうしてる?」と言われた。「疲れが出て病気になった」と言うと、ずいぶん心配してくれた。

「そういえばさくらちゃんて、もらってきてすぐ、肺に水がたまって大きな手術をしましたよね。一番弱い子なんですよ。気にしてあげてくださいね」

 主治医から言われ、申し訳なく思った。そうだ、さくらはとらよりずっと小さく、弱々しい子猫だった。食が細く、体力もない。なのにずっと認知症の父に寄り添い、介護を支えてくれた。看取りまで付き添ってくれた。

 大病を乗り越えたさくらをなでながら、母と「お父さんはあの世でさみしいから、さくらを呼んだのではないかしら。だめだよね」などと話している。

 さくらちゃん、お疲れ様。しばらくはのんびりしてちょうだいね。

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若林朋子
1971年富山市生まれ、同市在住。93年北陸に拠点を置く新聞社へ入社、90年代はスポーツ、2000年代以降は教育・医療を担当、12年退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍・広報誌、ネット媒体の「telling,」「AERA dot.」「Yahoo!個人」などに執筆。「猫の不妊手術推進の会」(富山市)から受託した保護猫3匹(とら、さくら、くま)と暮らす。

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