餓死させられた14万羽の鶏 繰り返さないために出来ることは
昨年12月から今年の2月にかけて、うめどりというブランドで鶏肉を生産する業者が、14万羽の鶏たちを餓死させた。食べることは動物を苦しめて良い理由にはならない。目をそらすのではなく、二度と起きないよう、どうか知ってほしい。
鶏肉という産業の裏側で
長く苦しんだ挙げ句に死に至る餓死は、許されることではない。一つの業者が14万の動物を餓死させたという事件は、ただ事ではない。
しかし、この問題はこの業者だけの問題ではないことを強調したい。
今の国内の畜産業においては、餓死や衰弱死をさせる養鶏場は多数ある。養鶏業では一つの養鶏場だけで1日に何十羽も死に、又は淘汰対象になる。餓死や衰弱死だけでなく、焼き殺してみたり、溺死させてみたり、そのまま廃棄物処理業者に出してみたり、驚くような酷い方法で殺している。
そして、このようなむごい扱いを容認しているのが、動物たちをその農場がどう扱っているのか知らずに鶏肉を買い、食べる消費者だ。無関心な消費者たちがいるかぎり、畜産業は変わらない。
鶏たちに何が起きたのか
ここにいた鶏たちは肉用鶏と呼ばれ、彼らはまだ赤ちゃんだ。通常50日間糞尿の上で暮らした末、捕獲されてトラック輸送され、シャックルに逆さ吊りにされて首を切られて鶏肉にされる。
2019年12月上旬、食鳥処理場(と畜場)が廃業し、そこから“出荷”、つまりと畜ができなくなったという。出荷先はできる限り探したそうだが見つからず、餌が断たれ、12月下旬から死に始め、そして全滅した。
食べ物が断たれてから、鶏がどのくらいで死亡するのか、どのように苦しんだのか。実際にはわからないが、死体から何が起きたかを想像すること、論文から苦しみを推測することができる。
最も運が良い鶏は、餌が断たれてすぐにブロイラーでよく発生する突発性の心臓発作などで死亡した鶏だ。
餌がなくなると、急激に低血糖になるため、もともと弱かった個体は、それが原因で早期に死亡した鶏も多かったであろう。なぜならもともと肉用鶏の約半数はくる病の傾向があり、血糖値が異常に低い鶏が多いためだ。
ただしこれらの鶏たちも、1日2日で死ぬことができたわけではない。動物は簡単には死ねない。
農場の外から撮影された写真には、地面が陥没するほど、糞尿が積み上がっている様子が写っている。これは鶏たちが長く生きていたことを意味している。
また、工場畜産で飼育されている鶏の死体は、死んでから時間が立つとなぜか黒い粉をふいたようにまっ黒になっていくが、黒さがそれぞれの鶏で異なることが見て取れる。体が半分糞尿に埋まっていたり、死体の上に死体が重なっているケースも見られた。鶏たちは、徐々に、1羽づつ、ゆっくりと死んでいったのだ。
12月下旬に餌が断たれたのだとすれば、その後約50日~60日、生き続けた可能性がある。この日数は人の餓死と大きくは変わらない。
国境なき医師団の飢餓に関する文章を引用しよう。
「極度に衰弱しても、苦痛を感じる能力まで鈍るわけではない。筋肉が萎縮しているため、あらゆる動きは痛みを伴う。皮膚組織が乾燥して皮膚が裂けることによる痛みもある。当然、感染症も痛みを引き起こす。極度に衰弱しているため、あらゆる病気に感染する危険がある」
餓死するということ
食べ物が断たれると、最初に血糖値が急激に下がる。最初に削り取られるのは脂肪だ。次に、タンパク質、グリコーゲンが削られ、筋肉の萎縮をもたらす。感染症にもかかりやすくなる。
肉用鶏はもともと骨が脆い上、この子たちはまだ赤ちゃんなので発達途中である。筋肉の萎縮と骨の脆さに拍車がかかり、立てなくなって動きが取れなくなった鶏も多かっただろう。
体液がたまり、浮腫、心機能障害、心拍数の低下、腎臓の機能不全も起きる。下痢がひどくなり、腸内細菌が増加し、毒素が増え、腸粘膜に損傷を及ぼす。下痢の時、あなたも腹の痛みに苦しむだろうが、動物も痛みは同じだ。
体温が下がる。しかも12月から2月にかけての最も寒い時期だ。低体温になった状態で眠ることすらできなかった可能性も高い。苦痛に対して鈍感になるということはなく、むしろ過敏になる。老衰ではないのだ。
精神的な苦しみも
飢餓によって、無気力、不安定な歩行、羽毛の乱れ、警戒心の喪失などが起きることが立証されている。人の10日間の飢餓実験でも、「頻繁に記憶をなくし、精神的にまったく警戒しない状態になり、質問への応答が遅くなり、疲れ、青白く、そして無神経」になったという。
鶏たちは親友を作ったり、仲間の後ろにくっついて歩いたり、一緒に砂浴びをしたりする。バタバタと仲間が死んでいく中、生き残るのはどのような気持ちだろうか。
多くはなさそうであるが、一部肉が露出していた死体も見られた。これは共食いをした形跡であるかもしれない。
動物の安楽殺を議論しよう
いくつかの対処が可能であったことを強調したい。
1カ月も断たずに、資金が途切れてしまうような経営状態で動物を飼育することは危うすぎる。
肉用鶏は50日のサイクルで殺され続ける。そのサイクルをより早い段階で止めるべきであった。これは命を軽視し、商売を優先するという考えが、正しい判断を鈍らせた結果ではなかろうか。
また、と畜場が廃業した段階で、残った従業員や役員総出で炭酸ガスを調達し淘汰できたはずだ。この方法は安価である。
養鶏で一般的な淘汰方法である頸椎脱臼で、殺処分することも可能であったと考えられる。なお、他の農場では、出荷できない鶏を1時間以内に3~4人で200羽頸椎脱臼で淘汰することもある(※全く安楽ではないが餓死より苦しみの時間が短い。EUでは頸椎脱臼は一人1日70羽までとされている)。
日本には殺処分を嫌がる畜産農家が多いが、そのような人には畜産は向いていない。また、殺処分のことを議論すらしたくないという人は、動物を苦しめることを助長している。見たくない、聞きたくない、という裏で、動物たちはよりひどく苦しめられているのだから。
動物福祉の重要な点として、安楽殺が含まれていることを認識し、議論をはじめなくてはならない。そうでなければ、日本にはいつまでたってもアニマルウェルフェアは定着しないだろう。
もしあなたが殺す方法の議論を直視できないのであれば、今すぐ、肉や卵、動物利用から離れるべきなのだ。
しかし、犠牲は今日も産まれ続けている。だから向き合うしかない。
消費者としてできることは、買い物をする時に、アニマルウェルフェアが配慮されているのか確認することだ。海外の大手企業は、アニマルウェルフェアのポリシーを持ち公開しているところが多い。スーパーやレストランにアニマルウェルフェアのポリシーを作って公開してほしいと意見することも、動物たちの苦しみを将来的に減らすことにつながる。
和歌山県によると、県は動物愛護法違反の疑いで業者を告発した。動物愛護法が機能するのか、見守りたい。
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