猫も人も幸せに 猫好きさんに知ってほしいことを詰め込んだ1冊
sippoでも執筆中のライター・本木文恵さんが猫の本専門の出版レーベル「ねこねっこ」を立ち上げ、その第1弾書籍『猫からのおねがい ~猫も人も幸せになれる迎え方&暮らし』が3月24日に発売された。
猫の歴史や生態などの基礎知識にはじまり、猫の迎え方や猫ファーストな暮らし方、動物愛護管理法改正など、猫をとりまく最新情報まで。 “猫のこと”が詰まった本書には、タイトルのとおり「猫も人も幸せに」と願う気持ちが、随所に感じられた。6月1日の改正法の施行を前に、本書と猫への思いについて、本木さんに話を聞いた。
――そもそも、出版レーベルを立ち上げたのはなぜですか?
編集者・ライターとして、ほぼ猫に専念して十数年になりますが、ここ最近はとくに猫と人との関係が変化を迎えている時期と感じています。
完全室内飼いの浸透やペットフードの充実、獣医療の発展などの恩恵を受けながら、猫の平均寿命も延びてきました。猫の命を思いやり活動する方たちや自治体の担当者の努力によって殺処分数は減少を続け、動物福祉に対する世の中の関心も徐々にですが、高まっています。
これらを含む大きな流れの中、猫という動物に対する価値観が、多様化しているように感じます。猫に関する情報発信にあたっても、「人のもとで家族として暮らす猫」「生物としての猫」「社会や地域の中での猫」など、多面的に捉える視点が重要になってきているのではないかと。そんな事情に思考を巡らせているうちに、今後は出版社をまわって企画を立案していくよりも、自分が版元になったほうがスムーズでは、と考えたのが大きい理由です。
――『猫からのおねがい』は、猫の一生をまるごと詰め込んだような、気合を感じる1冊でした。最初にどういうコンセプトから始まったのですか?
当初の案は、『猫からのおねがい』で写真担当のたむらりえさん(@Riepoyonn)の愛猫、アメリちゃん、カヌレくん、そらくんの写真やエッセイを中心とした本でした。3匹がおうちで幸せそうに過ごす姿から、保護猫を迎える選択肢をポジティブに感じてもらえたら、というコンセプトです。
しかし最近は、猫の写真集は「売れる作品は売れる。が、長く売れ続ける作品はそう多くない」傾向もあります。そうした事情もふまえると、りえさんの「日本中の猫を丸ごと幸せにしたい」というやさしい気持ちを、より広く、具体的な形にするには「役立つ本」がいいのでは?と考え至りました。
そこで、2020年6月から施行の改正動物愛護管理法まで含めた、今、猫好きさんたちに知ってほしい内容を、りえさんの可愛い写真と組み合わせて解説する本に変更しました。
猫専門病院の服部幸先生に監修いただき、猫の暮らしや健康、防災対策などの原稿を、半年近くにわたって何度も往復させて練り上げていきました。
――制作中、何か印象深い出来事はありましたか?
改正動物愛護管理法には環境省令で規定される部分がありますが、その公布が2月28日でした。が、校了日はその前日。何とか反映させたくて、公布直後、大慌てで印刷所に対応していただきました。
2月28日は、動物愛護管理基本指針のパブリックコメントの締切日でもありました。基本指針案の一部に意図が伝わりきらずに行政や猫のために活動する方の現場を混乱させるのでは?と感じた部分があったので、ギリギリでパブリックコメントを提出。訂正案の通りではないものの「意図を踏まえて修正」されたのを、後日確認できました。
環境省の動物愛護部会でも、「動物福祉とアニマルウェルフェアに意味の違いはあるのか」「無責任な餌やりとは具体的に何を指すのか」といった言葉をめぐる発言がかわされていますよね。本の制作中も、いろんな立場の方が読んでもなるべく違和感を覚えにくいニュートラルな言葉遣いを目指す、という点がもっとも苦労しました。説明する人によって定義がぶれる事態を避けるためにも、動物政策に関わる言葉は、もう一歩「わかりやすさ」が必要なのかなと感じています。
――本書は猫との暮らしを解説する内容であると同時に、動物愛護管理法の改正など、猫をとりまく環境や社会の「今」も色濃く記録しているのが印象的でした。今後、猫たちの状況がどう変わってほしいと思いますか?
動物愛護管理法の改正でいうと、第一種動物取扱業者が守るべき基準の具体化(数値規制)や8週齢規制といった流通上のペットの動物福祉を守る点、虐待や遺棄に対する罰則の強化等が、とくに注目されているように感じます。悪質なケースがあるからこそ、取り締まりの強化は重要ですよね。
それと同時に、不幸な猫をめぐる問題が明確に「悪徳」「残虐」な人によってのみ引き起こされているわけではなく、飼い猫やノラ猫の繁殖が大きく関わっている点にも留意が必要です。
飼えない数まで増やさないように、改正法では、適正に飼えない場合の繁殖制限が義務化されています。「屋内飼養に努める」など飼い主さん側のルールが書かれた「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」も遵守する責務があるものとなっています。
その一方で、無責任と罰せられても、正論を突きつけられても、もはや自力ではどうにもできない人たちもいます。
たとえば近年の大きな課題である「多頭飼育崩壊」。環境省の「社会福祉施策と連携した多頭飼育対策に関する検討会」では発生例から事由の分析が進められていますが、資料からは、精神疾患によるケースや、貧困によって生活が立ち行かなくなった人、地域や親戚関係から孤立した人の姿も浮かんできます。不妊・去勢手術をせずに餌やりをしてノラ猫を増やしてしまう人には、孤独を抱えて猫以外に心のよりどころがない高齢者もいます。
猫問題だけで見れば「加害者」となる人が、ときには、すでに人の社会では助けがなくては生きていけない立場かもしれない。だからこそ、猫を守っていくためのルールを共有するだけでは足りず、社会の変容も見渡し、人の福祉の側面まで広く考えられるようになることが、猫が穏やかに暮らせる社会の実現のために大切な気がしています。
――この本を手にされた方に、何か伝えたいことはありますか?
新型コロナウイルスの感染拡大という過去に例のない“日本も世界も被災地”となる事態によって、自身の困窮を想像できなかった人たちも出てくるでしょう。出版界が負った傷も大きく、私も他人事ではありません。今は家族と2匹の愛猫を守り切ることが最優先目標です。
日本で猫と暮らす家庭が仮に約550万世帯とするなら、ダメージの規模は、今後「猫を飼う」ことの価値観を大きく変容させるとも想像できます。これからは、また新たに猫と生きる社会を考えていく必要があるのかもしれません。
願わくば、それが多くの猫と人にとって幸せな未来であってほしいです。
(アメリちゃん、カヌレくん、そらくんの写真は、Riepoyonn提供)
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