すべての犬猫の幸せを願って ジュンク堂書店員が「棚づくり」
現在、ジュンク堂書店大阪本店の3階「社会書」コーナーの一角に、保護犬や保護猫に関連する本が並ぶ。棚の上に大きく掲げられた看板にはこう書かれている。「すべてのわんことにゃんこが『ずっとのおうち』でしあわせに暮らせるために 〜殺処分ゼロをめざすフェア〜」。この棚づくりには、犬猫たちの幸せを願う、ひとりの男性書店員の想いがあった。
(末尾に写真特集があります)
「犬や猫の当たり前の“かわいい”の先にあることが、『本』という形になっているものを選ばせていただいています」
選書を担当するのは、ジュンク堂書店大阪本店の書店員・前田浩之さん(49)。2017年からフェアを開始し、毎年1月の中頃から春にかけて同じテーマで選んだ本を並べている。3回目の開催となる今年は、3月末まで開催予定だという。
「飼い主の責任や悲しみ、殺処分によって“生を全うさせてもらえない命”のこと。そして、こうしたつらい現実に対して考え、動いている方たちのことを、とにかく一人でも多くの人に知ってもらいたいんです」
「猫に恩返しがしたい」
フェアまでの1年間と期間中に発売される本を加え、レイアウトを変えながら、毎回約20〜30タイトルを揃える。文庫や新書、児童書、実用書といったふだんは売り場が分かれる本も、ワンテーマを切り口に一堂に集められるため、手に取ってもらいやすいそうだ。
「『動物保護入門』(世界思想社)や『犬を殺すのは誰か』(朝日文庫)など、殺処分の問題を直接取り上げた、選書の中ではどちらかといえば“硬め”と思っていた本に、深く関心を持つ方がたくさんいらっしゃるのを感じています。ありがたい気持ちと、次の本をご用意できるようにと身が引き締まる想いもあります」
前田さんが、こうした棚づくりをするようになったきっかけには、愛猫との別れと、保護猫カフェとの出会いがあった。
「2016年の夏に、17年間いっしょに暮らした連れ合いのオスの黒猫が逝って。それから数カ月間、ずっと彼のことを考えて出てきた想いが『猫に恩返しがしたい』でした。ちょうどその頃、同じフロアで働く猫好きの同僚が保護猫カフェの『ネコリパブリック』さんに連れて行ってくれて、保護猫のための活動を知りました」
ネコリパブリックが発行する新聞や、保護・譲渡活動費に充てるために販売するグッズをジュンク堂書店にも置くことで、「PRの手伝いになれば」と感じたという。
「そして、保護犬や保護猫に関する本も集めて、たくさんの方に認知してもらうことが、書店員である自分ができることだと」
棚に掲げられた看板は、ネコリパブリックに連れて行ってくれた同僚が、前田さんの想いを汲んで描いてくれたもの。“犬派”の上司は、保護犬に関連する本の選書をアドバイスしてくれた。こうして最初の棚が完成し、以降も保護犬・猫の本が立て続けに刊行されているのを見て、フェアの継続を決めた。
本を“入り口”に、関心持って
ところで前田さんは、昨年の秋に知人が保護した、生後半年ほどのメスの猫を迎えた。先代と同じ黒猫だ。
「先代を亡くしたときに『この子のために、もっとできることがあったんじゃないか』という想いがどうしてもありました。おかげで、今は“猫のしもべ”としての心得にも拍車がかかっています」
愛猫の飼い主として、書店員として。双方の立場を通じて、犬と猫の幸せのために「本」がもつ可能性を改めてこう感じたという。
「フェアで取り揃えた本によって自分自身も命の重みや儚さを知って、猫への愛情が深まっているのかもしれません。本は、直接には、保護犬や保護猫のお腹を満たしたり、温めたりすることはできない。誰もがみんな犬猫を救う活動ができるわけではないし、それは僕も同じです。けれど、本を“入り口”にして、彼ら・彼女らに関心をもつことはできます。みんなで、少しずつでも、関心を持ち続けることで、苦しい状況にいる命が健やかで穏やかな時間をずっと過ごしてもらえるようになってほしいです」
(本木文恵)
- 「ジュンク堂書店 大阪本店」
- 大阪府大阪市北区堂島1-6-20 堂島アバンザ2階~3階
営業時間:09:00~21:00
前田さんが更新する「ジュンク堂書店大阪本店 社会書」のTwitter:@junkuosaka_sha
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