コロナで保護団体が苦境 「殺処分ゼロ」取り組み後退の可能性も

2019年に開かれた譲渡会で出会いを待つ犬
2019年に開かれた譲渡会で出会いを待つ犬

 新型コロナウイルスの影響で、犬や猫の保護団体が苦境に立たされている。多数の人が集まる譲渡会が開催できず、外出自粛が続くなかで保護猫カフェやシェルターなどに来てもらうことも難しくなっているためだ。新たな飼い主を探す機会が奪われてしまい、多くの団体で収容能力の限界が近づいている。このままでは、「殺処分ゼロ」に向けた取り組みが後退する可能性も出てきた。

譲渡会が開催できず譲渡数が激減

「譲渡会は全滅。譲渡数はこれまでに比べて9割も減ってしまった」

 4月7日に出された緊急事態宣言の対象になった自治体で、猫約200匹を保護している団体の代表はそう嘆く。例年ならなるべく成猫の譲渡を促進して、これから始まる野良猫の出産ラッシュに備えておくべきタイミングに、新型コロナの問題が直撃した。

 保護団体で譲渡が進まなければ、新たに犬猫を保護することができなくなる。そのことは、自治体での殺処分の増加につながる。

 2000年代半ばには毎年度、犬猫あわせて30万匹以上が全国の自治体で殺処分されていた。それが18年度には、4万6411匹まで減っている(環境省調べ、負傷動物を含む)。この間、殺処分を減らすために、自治体が収容する犬猫の数を減らす取り組みと、いったん収容された犬猫が殺処分されないよう、新たな飼い主に譲渡する取り組みとが、並行して進められてきた。

 収容数については、捨て犬、捨て猫をいましめる普及啓発のほか、13年に施行された改正動物愛護法によって、繁殖業者やペットショップが売れ残った犬猫などを自治体に持ち込めないようにすることなどで、減らしてきた。

2019年に開かれた譲渡会で、新しい飼い主との出会いを待つ猫
2019年に開かれた譲渡会で、新しい飼い主との出会いを待つ猫

 一方、譲渡数の増加は、保護団体の存在なしには語れない。自治体に収容された犬猫を、保護団体が数をまとめて引き受ける、いわゆる「団体譲渡」が、全国で行われてきたのだ。環境省によると18年度、殺処分をまぬがれ、譲渡されていった犬猫は計4万5135匹。動物愛護に関する事務を所管する全国の都道府県、政令指定都市など計125自治体全てを朝日新聞が調査したところ、このうち2万2738匹が、保護団体への譲渡だった。半分以上を、保護団体が救っていたことになる。

 保護団体は、自治体から引き取った犬猫たちの世話にあたり、一定のしつけをほどこし、時には病気やケガを治すために動物病院に連れて行く。離乳前の子犬・子猫であれば、昼夜の別なく授乳などに追われる。そのうえで譲渡会などの機会を作り、一般の飼い主へと引き渡す。

今の状況続けば殺処分増加も

 今回の新型コロナの問題は、こうした保護団体の活動を停滞させた。譲渡の場を奪っただけでなく、譲渡会場やシェルターで寄付を募ったり、保護猫カフェで収益をあげたりする機会も奪った。一部の団体ではインターネットを使った「バーチャル譲渡会」を始めているところもあるが、いまのままの状態が続けば早晩、自治体の収容施設にも影響があらわれてくるだろう。全国で「命の期限」を迎え、殺処分される犬猫が、例年にないペースで出てくることにつながる。

 保護団体だけでなく、環境省や自治体も含めたすべての関係者が知恵を絞るべきときだ。殺処分を減らしていこうという流れが、新型コロナ問題によって変わるようなことがあってはならない。

【太田記者も参加!sippoオンライン譲渡会】
日時  :5月3日(日)13:00~
ゲスト :浅田美代子さん、太田匡彦記者
協力団体:ねこかつ
配信URL:https://youtu.be/K1f6q5t9DTE
※ZOOMの映像をyoutubeにライブ配信します。
※視聴予約できます。
(画像をクリックすると、sippoのYouTubeチャンネルにとびます)

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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