同居直後に愛猫が突然死 夫婦がペットロスを乗り越えるまで
独身時代から飼っていたメス猫を連れて婚約者と同居を始めた。1匹では淋しそうだと、もう1匹子猫を迎えた。だが、シャイなメス猫は、夫と仲良くなる前に急死してしまった…。喪失と悔いから始まった新婚生活。ふたりに再び笑いをもたらしてくれたのは、やはり猫だった。
出版社に勤める綾子さん(44)とまさひこさん(45)夫妻は、東京都渋谷区のマンションに暮らしている。自宅の書棚にはぎっしりと本が並び、そばに茶トラ猫と黒猫がくつろいでいた。
「オスの『フク』と、メスの『くる』です。もう1匹、メスの『さくら』がいますが、ベッドの下に隠れちゃいました」
そう綾子さんが話すと、“俺に会いにきたの?”とでもいうように、茶トラのフクがぐいぐいと近づいてきた。気を引こうとして、棚から本を落とすこともあるという。
3匹と仲むつまじく暮らす夫婦だが、実はここ数年、目まぐるしい日々を送ってきたのだという。
10年一緒に暮らした猫
「私は独身時代に『キヨ』というメス猫と暮らしていました。キヨと一緒に、夫が住んでいたこの家に引っ越してきて、1年足らずの間に、まさかの出来事があったんです」
「僕もあの日のことは生涯忘れないよ」
キヨは、綾子さんが20代の頃、おじいさんの墓参りに行ったお寺で出会った猫だった。お墓のそばにぽつんといた子猫を連れ帰って、おじいさんの名前(きよじ)から二文字とって「キヨ」と名付けた。相性が合い、“女一人とメス猫”の親友同士のような暮らしが10年続いた頃、まさひこさんが現れた。新参者をキヨは警戒したという。
「僕が部屋に遊びに行くと、シャーって怒って。隠れたところをのぞくと、早く帰れといわんばかりにシャー。一緒に住むようになってからも、僕には心を閉ざしていた。僕は猫と暮らすのが初めてで、仲良くなりたいなと思って名前を呼んでも、ブーツの箱に隠れてずーっと出てこなかったりして」
キヨにすれば、大好きな“ママ”を取られるような気がしたのだろうか。しかも、そのライバルの家に引っ越して、昼間は家の中で、1匹でぽつん。まさひこさんはそんなキヨを不憫に思い「猫をもう1匹飼わないか?」と提案した。自分になつく猫が欲しいという思いもあった。
「子猫なら」と綾子さんも同意し、ふたりで保護猫の譲渡会に出かけるようになった。
出会いと別れ
そんなある日、ふたりは目黒区で行われた譲渡会で愛想のよいオス猫を見つけた。緊張して固まってしまう保護猫が多い中で、ケージ越しに猛アピールしてきたのが、当時生後3カ月のフクだった。「やる気を出してる、この子にしよう」と申し込んだ。その日はまさひこさんの誕生日で、「鍵シッポだし、福が来るといいね」とふたりで命名したのだという。
肝心のキヨは、フクを一目見て、目をパチクリ。今度は変なチビが来たというような面持ちだったという。綾子さんはキヨが見ている前ではフクを可愛がらないように気遣い、主にまさひこさんがフクの世話をした。そうしてキヨをたてながら暮らすうちに、キヨはまさひこさんにも気を許し始め、持ち上げて抱いてもシャーといわなくなった。
「よし、これからもっと仲良くなれそうだとわくわくしました。フクに対しても、キヨはしかたないという感じで受け入れ始めていた。でも程なくして……」
1月半ばの寒い日。まさひこさんが帰宅すると、床でキヨが喉を見せて寝そべっていた。
「あれ珍しい、大歓迎じゃないの」とまさひこさんが体を撫でると、その体はすでに、冷たくなっていた。
「え? なんで? 頭が真っ白になりました。すぐ妻に連絡し、タクシーで帰ってくる30分間は、どうしていいかわからず、ただおろおろ。少し前の健康診断でも問題なかったし、『20歳くらいまで生きてくれるかもね』と話していた矢先だったのに」
幼いフクはその時、動かなくなったキヨに向かって、ダダダッと走ってきては寸前で止まるという動作を繰り返していたという。綾子さんが帰宅してわんわんと泣くのを見て、まさひこさんも男泣きした。
心にポッカリ開いた穴
キヨを荼毘に付した後に、ふたりは籍を入れて正式な夫婦になった。だが、綾子さんの心に異変が起きた。
「いつかはきちんと入籍しようと思いながら同居していましたが、キヨさんのことでふたりの絆が深まったような気もします。ただ、獣医さんも驚くような突然死でした。闘病を経て、というような心構えがなくて、心にポッカリと穴が開いてしまいました」
綾子さんは泣き顔を隠すように大きなマスクをして仕事を続けた。それでも鬱々とした気持ちは消えない。留守番をたくさんさせちゃったな、おいしいものをもっとあげればよかったな、などの思いが広がった。夫にフクがくっつくのを見ると、余計に淋しさが募った。
キヨの面影を追うように、週末になると、保護猫サイトでメス猫を探し、まさひこさんと譲渡会に足を運ぶようになった。そうせずには、いられなかったのだ。
先代に少し似た猫
約2カ月後、ホワイトデーに出会ったのが、葛飾区柴又出身の「さくら」だった。薄三毛の茶色と白が、少しキヨに似ていた。
「今度はフクが先輩として、さくらを迎えることになりました。最初フクは偉そうにしていましたね。でもすぐに、兄妹だか夫婦だかわからないような感じで仲良くなったんです。そのむつまじい姿に心が和んでいきました。キヨに対しては、いろいろやってあげられなかった悔いがある。だからこそ、今いる子たちを毎日精いっぱい、可愛がりたいと思う」
そう話す横で、やんちゃなフクが、棚からまた本を落とす。そんな賑やかな居間の一角には、キヨの位牌も置いてある。
心はずっと、今も一緒だ。
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