猫にオヤツをあげたい1歳児 猫と子の根競べ、ついにその瞬間が
この連載で、我が家の猫と、1歳の娘の、良く言えば適度な距離感、悪く言えば仲が良いとは言えない状況をお伝えしてきました。前回は、娘がその寂しさを猫のぬいぐるみで癒しているというお話でしたが、ある日突然、進展がありました。
なんと、娘がサビ猫「あんず」へのエサやりに成功したのです。
オヤツをあげたい娘
ある日のこと。いつものように夕方起きてきたあんずが、鳴いてオヤツをねだってきました。
「あんずオヤツかい? ちょっと待ってね」
“オヤツをくれそうな雰囲気”を察したあんず。
最近は、かつお節に煮干しが丸ごと入っているオヤツをあげていました。キッチンの戸棚からその袋を出すと、あんずは「ニャァァ!」と喜びの声をあげ、私の後をついてくるので、えさ場で与えていました。
そのえさ場には、ベビーサークルでさえぎって娘が入れないようにしていましたが、柵のすき間からのぞくことは可能で、娘は観察するのが日課になっていました。
その日も、あんずを従えて、えさ場に行こうとすると、まだ上手く話せない娘が私の足元にしがみつき、「ウッウッウッ…!」と何やら訴えています。
「ウッウッ!」と、オヤツの袋を指差す娘。
「もしかして、あんずにオヤツをあげたいの?」
「ウッ」
「じゃ、あげてみるかい?」
「ウッウッ!」
袋から煮干し1匹を取り出して娘に渡すと、嬉しそうに娘は屈伸します。
あんずはすでにえさ場に到着していて、「あれ? オヤツは? くれないの? 今、何の時間なの?」とばかりに、うろたえていました。
娘は煮干しの頭を持って、あんずがいる方に差し出しました。
「あんずちゃん、どうぞって。あんず、おいでー」
えさ場はベビーサークルの向こう側にあるので、あんずにこちら側に来てもらう必要がありました。
ドキドキワクワクの表情で、あんずが寄ってくるのを待つ娘。
あんずは煮干しを見つめつつ、一歩踏み出せないでいました。そうこうしているうちに、娘が一旦、おもちゃの方へ。それでも、娘の手にはしっかりと煮干しがにぎられたままです。一時休戦のつもりでしょうか。
娘がおもちゃの方へ行くと、あんずの方からサークルを超えて、こちらへ近づいてきました。
「あんずちゃん、あの子がオヤツ持っているよ」
あんずは娘の手元を見つめています。
「あの子が大好きな煮干しを持っている! でも、あの子って動きが読めないし、すぐ奇声を発するし。食べたい……でもコワい……。何かのワナなのでは? でも、この香ばしさ、我慢できない……。たとえワナであろうと、アタシは今すぐ、オヤツを食べたいの!」
あんずがこう思ったかどうか分かりませんが、あんずは少しずつ娘に向かっていきます。
「ほら、あんずがこっちに来たよ」
娘は再度あんずに煮干しを差し出しました。いつもなら、自らあんずに突進して逃げられてしまうのに、何かを察して、そのままじっと待っていました。
このまま、どうなるの!? 見守るしかできない私です。
ペロペロ…1歳児と8歳猫の根競べ
1分ほど経過して、また待つのが退屈になった娘は、煮干しのシッポの先っちょをパクリ。
「えっ、食べちゃだめでしょ! ソレ、あんずちゃんの」
ああ、そうだったとばかりに、娘は尻尾がわずかに短くなった煮干しを再度あんずに差し出します。
それを見ていたあんずは、「このままでは、あの子にオヤツを食べられてしまう」と思ったのか、にじり寄ってきました。
すると、ついに煮干しをくわえられる距離まで近づいて、ペロッとひとなめ。
「ウー!」
娘は嬉しくて、思わず声を上げてしまいます。あんずはビクっとして、一旦離れますが、一度味わってしまったら、もっと食べたくなるのが、オヤツ好きの悲しき性(さが)というもの。
ペロペロ……。
普通なら、かぶりつくはずなのに、なめるだけで食べようとしないあんず。娘も負けじと、煮干しを放しません。奇声を発するのもガマンしている様子です。
ペロペロペロペロ……。
なんだか2人の根競べみたいになってきました。真剣な2人の様子が何だか可笑しくなってきて、笑いをこらえる私。
結局、2分以上こんな状態が続き、1歳児の根気が続くわけもなく、娘の手からポロっと煮干しが落ちました。
あんずは手から落ちた煮干しを、すぐにパクっとかぶりつかずに、しばらくニオイを確かめてから食べていました。
それを見た娘は、嬉しそうに私を見て、屈伸していました。
「ウー!!」
思わず声が出ましたが、あんずはもうビクッとはしませんでした。これで猫と娘は仲良くなれるのでしょうか? この連載で、またお知らせしていきます。
(ヤスダユキ)
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