かつてはどの町にも猫がいて、みな寛容だった 時代写した写真集
かつてはどの町でも、猫はわが物顔で外を歩き回り、好きな所で昼寝をして、奔放に生きていた。大阪在住の動物写真家・佐々木まことさんが撮りためた外猫の写真を収めた写真集『のらのいる風景』(鈴屋出版)が発行された。約20年前の大阪や兵庫で、町に溶け込むように暮らしていた猫たちが登場する。佐々木さんに猫への思いを聞いた。
――道路で伸びをしたり公園で寝そべったり、写真集に登場するどの猫も気ままで、懐かしい印象を受けます。
気づけば私が“野良にゃんこストーカー”(笑)を始めて20年近く経過し、写真は約300万カットもHDDに貯まっていました。そんな時、以前刊行した犬の写真集『ぼく、となりのわんこ』(オークラ出版)でお世話になった編集者が立ち上げた出版社から声をかけていただき、撮影初期の頃の写真からセレクトして写真集にしました。
人間社会と猫社会が共存していた
――今と昔では、猫を取り巻く環境は大きく違いますね。
子供の頃はどこの街に行っても野良猫が自由に闊歩し、飼い猫も外に出歩くのが普通で、人間社会と猫社会が自然な形で共存していました。30年ほど前に住んでいた大阪のオンボロ学生寮にも猫がいて、寮内を闊歩していました。人の家に侵入して泥棒する猫がいたり、庭を荒らす猫もいたりしましたが、猫嫌いの人も「まぁ仕方ないかぁ」という感じで接して、今から思えば「寛容」な社会だったとも思います。
――佐々木さんが猫を撮り始めた20年前は、「猫の飼い方」が変わる頃でもありました。
インターネットの普及などで便利になりましたが、その反面、世の中全体が「不寛容」になっていくのを実感していました。「善か悪」「白か黒」みたいな感じで、「悪」を「善」が叩きまくるみたいな感じになり……。とくに今までグレーゾーンの部分で生きていた野良猫の存在は許されなくなり、それまで均衡を保っていた「人間社会」と「猫社会」の関係も変わっていったように思います。
猫の保護活動をされている方々には怒られてしまうと思いますが……いつの間にか「猫は家で飼われるのが幸せ」「野良猫は不幸」というのが当たり前になってきて。私の場合は「人間って他の動物の幸せまで決めつけられる尊大な存在なのか?」と疑問を持っています。自由に生きている野良猫の姿が大好きなので、20年近くも野良にゃんこストーカーを続けているのだと思いますが……。
町には個性的な猫たちがいた
――とくに心に残っている猫はいますか?
20年前に住んだ大阪市のマンションの向かいに、猫路地とも言える長屋が並んだ路地があり、アイドルのようなキジトラ「ハナちゃん」がいました。時間になると猫好きな家の前で待って、刺し身、カリカリ、缶詰などをもらうグルメツアーをしていました。18年くらい生きたおばあちゃん猫です。路地には中華料理屋で飼われていた白茶ブチの「デシ君」や、廃業した喫茶店で飼われていた茶トラの「ゴン」など、個性的な猫がいました。
大きな公園にいたボス猫の「茶トラ親分」からは猫の生態を教わりました。日に何度かパトロールに来るのですが、「茶トラ親分」が来ると、茂みなどに隠れていたメス猫やチビ猫があいさつに出て来て、繁華街を闊歩する組長みたいな感じでした(笑)。オスのチビ猫がおとなになって、けんかを吹っかけると徹底的に返り討ちにしたりするのに、人間には子猫のような声を出して甘えてきたりと、野良猫の処世術も垣間見ました。
――カメラを通してみる猫たちの記録。どんな風に楽しんでほしいですか?
難しいことは考えていないので、絵本をめくるように楽しんでいただければ。昔飼っていた猫や、近所にいた野良猫のことを思い出したり、それぞれの読み方をしていただければと思います。彼ら(猫たち)の生きた証として本を残したくて、続編も考えています。
- 「のらのいる風景」
- 著者(撮影):佐々木まこと
発行:鈴屋出版
定価:1300円+税
体裁:オールカラー、112ページ
- 佐々木まこと
- 大阪府堺市在住。1968年北海道江別市生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業、99年よりフリー。写真集『ぼく、となりのわんこ。』(オークラ出版)電子写真集『となりのわんこ。Vol.1~3』(鈴屋出版)。「CREA WEB」(文芸春秋)にて19年より『佐々木まことの犬猫脱力写真館』を連載中。Facebook
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