猫のため、こだわりの家を新築 その縁で住宅展示場で譲渡会も

   保護猫を飼い始めた若い夫婦が、猫のために窓やドアにこだわった理想の家を新築することになった。それが縁で、建設を手がけた住宅メーカーの展示場で、保護猫の譲渡会を開けることになった。

(末尾に写真特集があります)

   埼玉県川口市にある真新しい一戸建て住宅。2カ月前に完成したばかりだ。彩香さん(31)は夫と、サビ柄の愛猫「さくら」(推定5歳)と暮らしている。

 玄関をあがると、すぐに扉が左右に並ぶ。「右は納戸です。左へどうそ」と案内されて廊下を進むと、今度は引き戸。がらっと開けて階段を上がると、またそこに引き戸がある。

2階の居間に入るまでにドアが3つあります(笑)。さくらが逃げないように、ドアの外から鍵をかけられるようにしているんです」

   天井が高く、居間の壁には、キャットステップとキャットウオークがぐるりと取り付けられている。

彩香さんと遊ぶさくらちゃん。居間には猫目線に合わせた窓が5面も
彩香さんと遊ぶさくらちゃん。居間には猫目線に合わせた窓が5面も

   さくらは来客に驚いて奥に隠れてしまったが、ふだんはロフトまで続くキャットウオークを移動して、好きな所で窓の外の景色を楽しむのだという。寝そべりながら外が見られるように、低い位置にも窓が設けられていて、いたれりつくせりだ。

猫の鳴き声のために新築を決意

 彩香さんは一昨年5月に結婚し、3カ月後に猫を飼うことになった。

「知りあいのボランティアさんが保護した野良猫のさくらを迎えることにしたんです。さくらは別の猫とケンカをするので、専用部屋で1匹だけで過ごしていたので、うちで引き取りたいなと」

   彩香さんは、父親が経営する建築会社で働いている。5年前、母が会社の前で子猫を拾ったのを機に、会社の中で猫を保護するようになり、彩香さんも事務をしながら猫の世話を手伝っている。

   現在も会社に保護猫が9匹いるが、1匹だけ選んで「うちの子」にすることができなかったという。サビ柄が好きだったこともあり、ボランティア宅にいたさくらに手を差し伸べた。

   さくらを迎えた当初、彩香さんは夫が独身時代から借りていたマンションに住んでいた。

「夫も私も、その当時は賃貸住まいのままでいいと思っていました。ところが、さくらが私に慣れると分離不安のように後追いして、大声で鳴くようになって。周りの部屋に迷惑にならないかと気になってしまったんです」

キャットウォークで”香箱座り”をするさくらちゃん「居心地いいな」
キャットウォークで”香箱座り”をするさくらちゃん「居心地いいな」

 さくらは、彩香さんが仕事で外出する時は、あきらめたように鳴かないが、トイレや浴室に行く時は「待って」というように叫んだ。

「私の行動を見渡せるような空間なら大丈夫かな、この間取りだとずっと鳴くのかなと悩んでいるうちに、さくらも自分も穏やかに暮らせるような一戸建てを建てたくなったんです」

   県内に、親類が所有する古い建物があった。家族で相談して、そこに新居を建てることにした。

設計士も驚く猫への思い

   父の会社も建築関係だが、「気を遣わせたくない」との思いから、家造りは別の会社にお願いすることにした。ペットと住める住宅を多く手がけるメーカーから、近くに住宅展示場があった大和ハウス工業を選び、猫への思いを詰め込んで設計してもらった。

「猫のためにいろいろリクエストしました。営業の方も設計士さんもよく話を聞いてくれましたが、やはりドアの数には驚かれたようです(笑)」

   彩香さんにとって、さくらは初めての“飼い猫”で、過去に猫が逃げた経験があるわけではない。脱走しないようにという思いは、会社で世話をする保護猫を見ているうちに自然に生まれた感情なのだという。

ロフトから居間を見下ろしています
ロフトから居間を見下ろしています

「野良だった子たちは、栄養状態が悪くて病気になったり、外でケンカして感染症になったり、事故に遭って足を失ってしまった子もいました。だから、二度と外でつらい思いをさせたくないという気持ちが強いんです……」

   担当の設計士は、猫と楽しむためのアイデアは考えたことがあるが、脱走防止を第一に考えて設計したのは初めてだったという。最初は頭を抱えていたが、彩香さんの思いに応えようと、何度も図面を引き直してくれたという。こうして、9カ月かけて理想の新居ができあがった。

住宅展示場で譲渡会を開きたい

   さらに、彩香さんの「猫への思い」が嬉しい出来事につながる。

   大和ハウスが、JR蕨(わらび)駅前にある住宅展示場を、保護猫の譲渡会の場として貸してくれることになったのだ。

「個人で保護活動をしていると保護スペースが難しいことが多く、参加できる譲渡会の場所も限られているんです。譲渡会ができれば、家族を見つける猫も増えるねと、いつも母と話していました。蕨の展示場にはリビングにキャットウオークなどがあったのでイメージもぴったり。それで『譲渡会に貸してもらえないか』と相談したら、営業の担当者が上司にかけあってくれました」

家を建てた縁で始まった住宅展示場での譲渡会(毎月第四日曜)
家を建てた縁で始まった住宅展示場での譲渡会(毎月第四日曜)

   蕨にある大和ハウスの展示場は、当時の店長が猫好きだったために、以前にも人と猫が触れあうイベントを催したことがあり、逃げにくい造りになっていた。彩香さんが提案した譲渡会の企画は、1カ月ほどで実現した。

   最初の譲渡会は、昨年6月、彩香さんの新居の着工月に開かれた。それから毎月第4日曜日(12時~15時)にも開催している。

「譲渡会は『にゃんはうす』と名付け、毎回数名の個人ボランティアさんを募っています。1015匹の猫が参加して、毎回1匹以上は申し込みがあり、11月には5匹も家族が決まったんです。今年初めての譲渡会がもうすぐあります」

 途中から彩香さんの母も加わって談笑していると、隠れていたさくらが現れ、意気揚々とキャットステップをつたい、ロフトまで駆け上がっていった。

「にゃんはうす譲渡会」のツイッター
藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は16歳の黒猫イヌオと、2歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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