犬のケガ治療せず衰弱させた疑いで男を逮捕 自宅に犬70数匹

屋内外で100匹以上の犬が飼育されていた=2017年12月、宇都宮市
屋内外で100匹以上の犬が飼育されていた=2017年12月、宇都宮市

 1匹のメスのビーグルを飼い始めたのが最初だったという。外につないでいたら子犬を産んだ。

 犬たちは次々と近親交配を繰り返し、それからおよそ10年。2017年の年末、宇都宮市内にある一人暮らしの男(73)の自宅を訪ねると、ビーグル風の外見をした犬が100匹以上も暮らしていた。

 近づくと、犬たちがほえる声が響き渡っていた。臭気も鼻をつく。自宅建物の前にたくさんの犬がつながれていて、開け放たれた2階の窓から屋根の上に出ている犬もいた。

不妊去勢手術の費用は出せない

 年金で暮らしてきた男に、1匹あたり数万円かかる不妊・去勢手術の費用は捻出できない。ボランティアらが犬の面倒を見るために通い、行政が介入して少しずつ譲渡活動をしていた。しかし人手は限られ、犬たちが一気に減ることはない。「まるっきりいなくなったら寂しいしね」。男は取材にそうつぶやいた。

 そして今年1月21日、男は動物愛護法違反(虐待)の容疑で、栃木県警宇都宮中央署に逮捕された。ケガをした犬に適切な治療を行わずに衰弱させた疑いだ。男は容疑を否認しているという。

窓から戸外に出ようとする犬も=2017年12月、宇都宮市
窓から戸外に出ようとする犬も=2017年12月、宇都宮市

国も多頭飼育崩壊の対策に乗り出す

 全国的に、飼い主が複数の犬猫を抱え、適正に飼育できなくなる「多頭飼育崩壊」が問題になっている。宇都宮市内の男のような状態に陥る飼い主は、「決して珍しいことではない」(動物愛護団体関係者)。

 こうした事態を受けて環境省は昨年3月、「社会福祉施策と連携した多頭飼育対策に関する検討会」を立ち上げた。「全国の自治体の動物愛護管理部局に共通する課題である不適正な多頭飼育の問題について、社会福祉分野と連携した対応ができるようガイドラインの作成を目指している」(同省動物愛護管理室)という。

 加えて、昨年6月に可決、成立した改正動物愛護法には、多頭飼育崩壊が社会問題化していることを念頭に置いた条文がいくつか盛り込まれている。飼育密度が「著しく適正を欠いた状態」でペットを衰弱させるケースは、動物虐待にあたると明記。多頭飼育崩壊に陥るような恐れがある場合には、犬猫に不妊・去勢手術をすることも義務化される。周辺環境に迷惑をかけている飼い主に対しては、自治体が立ち入り検査や指導も行えるようになる。

 本来、幸せをもたらすはずの犬猫の飼育が、周辺住民も巻き込んだ大問題に発展してしまう多頭飼育崩壊は、いったん起きると犬猫の処分方法も含めて収束は容易ではない。今回は逮捕者まで出した。逮捕された時点で、男のもとにはまだ73匹の犬がいた。改正動愛法は今年6月に施行されるが、自治体の現場も巻き込んだ、多頭飼育崩壊に陥らせないための対策が急がれる。

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太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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