改正動物愛護法 改正のポイントと、これからの課題

 幼すぎる子犬・子猫の販売を禁じたり、飼い主の不適切な「多頭飼育」を虐待と明記したりする改正動物愛護法が6月の国会で成立しました。1973年に議員立法で制定されて以来、4度目の改正です。26日までの動物愛護週間を機に、改正のポイントを紹介し、今後の課題を考えます。

生後8週以下の犬や猫の販売禁止

 「ペット業界全体のレベルアップにつながると思う」

 ペット販売大手コジマの川畑剛(たかし)社長は、今回の改正をこう評価する。犬猫の繁殖業者やペットショップなどの飼育状況を改善するため、業者への規制が大幅に強化されたからだ。

 切り札と見られるのが、生後56日以下の子犬・子猫の販売を禁じる8週齢規制と、飼育施設の広さや従業員1人あたりの上限飼育数を、環境省令によって具体的な数値で規制する制度の導入だ。

 これら二つの規制が浸透すれば、「設備投資や飼育コストの増加は経営にとっては重荷だが、心身ともに健康な、よりよい状態の子犬・子猫を、業界として販売できるようになる」とする。一部の問題業者の淘汰(とうた)も期待される。

 8週齢規制は、販売前の子犬・子猫を生後56日まで母親やきょうだい、人間にふれあわせ、適切に社会化することで成長後の問題行動を予防する。また、免疫力を高めて出荷・販売することで感染症のリスクを減らすことにつながる。欧米先進国の多くで実施されているが、日本では、ペット関連の業界団体が飼育コストの上昇につながるなどとして反対し、これまで7週齢(生後49日)規制にとどまっていた。

日本犬6種は8週齢規制の対象外に

 一方、天然記念物に指定されている日本犬6種(柴犬、紀州犬、四国犬、甲斐犬、北海道犬、秋田犬)は、8週齢規制の対象から一部外される。「日本犬保存会」(会長=岸信夫衆院議員)と「秋田犬保存会」(会長=遠藤敬衆院議員)の二つの公益社団法人が、日本犬に限っては対象外とするよう強く求めたためだ。日本犬6種のうちいずれか1種を繁殖している業者が、一般の飼い主に直接販売する場合に限り、現行法のまま生後49日を超えれば販売できることになった。

 このことについて、改正を主導した超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」会長の尾辻秀久参院議員は6月19日、東京・永田町の参院議員会館で開かれた議連総会で、「議員立法(による改正)では、極論すると、1人でも反対すると成立しない。従って譲らざるを得ない部分が、8週齢規制のところにあった」などと苦悩をにじませた。

日本犬は8週齢規制対象から外された
日本犬は8週齢規制対象から外された

 また、飼育管理に関する数値規制は、自治体による繁殖業者やペットショップへの監視・指導が効果的に行えない実態があったため、導入される。自治体が数値を示して業者を指導できるようになり、従わない場合には迅速に改善命令や登録取り消しなどが行えるようになる。

 ただ、具体的な数値は環境省の省令に委ねられ、同省は来春ごろまでをめどに、骨子案をまとめる予定だ。複数の動物愛護団体などで作る「動物との共生を考える連絡会」代表の青木貢一獣医師は「業者への規制が本当に実効性あるものになるかどうかは、環境省令で定める数値規制の内容にかかっている。検討状況を注視していく必要がある」と指摘する。

ネット販売や移動販売への規制強化

 ほかにも、消費者トラブルにつながりやすい、ペットのインターネット販売や、イベント会場などに1日限定で出店する「移動販売」への規制も強化することになった。

 2012年の前回改正ではインターネット販売を禁じるため、販売業者に対して、購入者に動物を実際に見せ、対面して説明するよう義務づけたが、空港などで空輸されてきた動物の対面説明を代行する業者が新たに登場。実質的に野放しになっていた。今回は、説明する場所を販売業者の事業所に限定する。説明の代行はできなくなる。

 また、移動販売を規制する条項はなかったが、この改正により、「これまで無登録でできていた、24時間以内の営業の移動販売が規制されることになる」(同省動物愛護管理室)という。

 さらに、繁殖用の犬猫や販売用の犬猫の遺棄防止などを狙い、マイクロチップ装着を繁殖業者に義務づける。犬猫以外については、ニホンザルやツキノワグマ、ライオンなど特定動物(危険動物)に関し、ペットとしての飼育が禁止される。

不適切な多頭飼育は虐待と明記

 一般の飼い主に対する規制も一部強化された。特に、犬や猫などのペットが増えすぎて対応できなくなる「多頭飼育崩壊」が社会問題化していることを念頭に置いた改正が目立つ。

多頭飼育崩壊の恐れがある場合、犬猫に不妊・去勢手術を義務化
多頭飼育崩壊の恐れがある場合、犬猫に不妊・去勢手術を義務化

 例えば、飼育密度が「著しく適正を欠いた状態」でペットを衰弱させるケースは、動物虐待にあたると明記。多頭飼育崩壊に陥るような恐れがある場合には、犬猫に不妊・去勢手術をすることが義務化された。周辺環境に迷惑をかけている飼い主に対しては、自治体が立ち入り検査や指導も行えるようになる。

 虐待されていると思われる動物を見つけた獣医師には、自治体に通報することも義務づけられた。

動物殺傷罪の罰則を引き上げ

 動物愛護団体「PEACE」の東さちこ代表は、これらの新たな規制に加えて、動物殺傷罪の罰則が「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」から、「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に引き上げられたことなどを評価する。「動物の遺棄罪に対しても、懲役刑が追加された。一気に厳罰化が進んだのは驚き」と話す。

 また、自治体の、畜産動物に関わる業務を行う部署と、動物愛護に関わる業務を行う部署との連携強化が盛り込まれたことも「画期的だ」という。畜産動物への虐待事例が顕在化していくとみている。一方で、世界的に代替法の確立や利用の削減が進む実験動物についての規制は、盛り込まれなかった。東さんは「国際的に恥ずかしい状況。次回改正の課題として残った」と指摘する。

 改正動愛法は来年6月施行。8週齢規制、数値規制は21年、マイクロチップ装着義務化は22年になる。
(専門記者・太田匡彦)

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