またね、斎藤さん 永眠した阪大の黒猫、学生に愛され写真集に
大阪大学の豊中キャンパス(大阪府豊中市)に、「斎藤さん」の愛称で親しまれた黒猫がいた。人なつっこく、講義室に入り込んでは昼寝をする。今年6月に天寿をまっとうした。学生の有志が写真集をつくるとたちまち完売。「学生時代の癒やしでした」「安らかに」。別れを惜しむ声が広がっている。
斎藤さんは、真っ黒な毛並みに黄色い瞳が特徴のオス。授業中にもかかわらず講義室の中を歩き回ったり、机の上で学生と並んで授業を受けたりとマイペース。法学部2年の中村健太朗さん(21)は「教科書の上に乗ってきてメモがとれなかった」と笑う。
写真集を作った非公認サークルの「まちかねこ調査隊」は2011年に発足。豊中キャンパスがある待兼山(まちかねやま)にちなみ、学内に生息する猫を「まちかねこ」と呼んで観察や調査を続けてきた。現在は25匹程度が暮らしているが、中でも斎藤さんは特別な存在だった。
「警戒心は無きに等しく、まちかねこの中でも最も阪大生と交流しているであろう」。調査隊がまとめたまちかねこ図鑑では、そう紹介されている。
近づくと逃げてしまう他の猫と違い、斎藤さんはなでても嫌がらないため、学生や教職員だけでなく、近所の人やバス停の警備員らにもかわいがられてきた。隊長の文学部2年、奥谷仁美さん(19)は友人を待っていた寒い日にひざの上に乗ってきてくれたのが忘れられない。「私を温めてくれようとしたのか、それとも自分が温まりたかったのかな」と振り返る。
もとはキャンパス内の学生寮にいたらしい。その頃かわいがっていた人の名前が斎藤さんだった、と学内で語り継がれている。年齢はわからないが、2000年ごろから目撃情報がいくつもあるという。
今春以降、すみかとするキャンパス北東の大講義室周辺で寝ていることが多くなった。学生が近づいても、以前のように体を起こすことは少なくなり、やせ気味になった。最後は近所の人に保護され、6月9日に息を引き取ったという。老衰だったとみられる。
調査隊がツイッターで報告すると、「写真集を作って」という声がいくつも届いた。写真を募ると、現役学生や卒業生から40枚近くが集まった。
写真集はオールカラーで36ページ。「単位を取れなかった学生の化身という都市伝説も」などのエピソードを交え、斎藤さんを振り返る。「長い間、阪大生に癒やしをありがとう」「優しい斎藤さん、安らかに」といったファンからの追悼の言葉も掲載した。
今月2~4日の大学祭での販売を告知すると、準備した50冊を上回る90件もの予約が殺到。急きょ増刷し、大学祭では190冊が売り切れた。東京で暮らす卒業生や、カナダの元留学生からも郵送の依頼があり、増刷して対応した。
奥谷さんは「斎藤さんとの思い出がある人がこんなにたくさんいるなんて」と反響の大きさに驚く。今も講義室の近くを通るとつい目で探してしまう。「もっと触れあっておけばよかったな」と悔やむ。
写真集の最後は、大講義室前にたたずむ斎藤さんの写真とともにこう締めくくった。
「またね。斎藤さん」
(坂東慎一郎)
- 写真集は1冊500円。希望者はまちかねこ調査隊のメール(machikaneko2011@gmail.com)へ。
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