いつも血だらけだった野良猫 大手術を受け、元気な家猫に

 オフィス街の一角に現れた1匹の野良猫。周囲の人たちがえさをあげて世話していたが、なぜかいつも血だらけだった。皆で相談し、動物病院に連れて行った。すると手術が必要なことがわかった。

(末尾に写真特集があります)

オフィス街にいた血だらけトラ猫

 大阪市中央区、オフィス街の一角で古書店を営む綿瀬さんは、店の近所に茶トラの迷い猫がいると聞いた。しかも、けがをしているわけでもないのに、血だらけなのだという。

 綿瀬さんは3匹の猫を飼う猫好き。周囲にも猫好きの人がいて、知らせてくれたのだ。2011年9月、残暑の季節のことだった。

 近くの海鮮料理店の店主がさしみの残りをあげたり、他の人もごはんをあげたりしていたため、食べ物には困っていなかったようだ。だが、なぜかいつも血だらけになっていた。しばらく皆で様子を見ながら、どうしたものかと話し合っていた。

「体に傷を負っているわけではなく、拭いてあげると、きれいになったんです。ひとまず私が動物病院に連れていくことにしました」と綿瀬さんはいう。

 ところが、猫を抱き上げてケージに入れようとすると、野生の勘が働くのか逃げていってしまった。綿瀬さんは「エサ場から追いやるようなことをして悪かったな」と思ったが、猫は翌日ひょっこり戻ってきた。今度は近所のおばあさんが「私が捕まえる」と言って、ケージに入れてくれたという。

大手術の後に
大手術の後に

大手術に踏み切る

 綿瀬さんは友人から聞いていた腕のいい動物病院の分院が近所にできたので、そこで診てもらうことにした。

「獣医師によると、推定2歳。左側のあごの骨にヒビが入っていて、それが治っていく時に関節の骨もがっちりくっついてしまったのではないかということでした。ただ口の中で出血していて、その血がついた舌で体をなめるので、拭いても、拭いても、体が血だらけになっていたのです。手術をしなければ、だんだん口が開かなくなって、ごはんも食べられなくなると言われました」

 獣医師からは「野良猫ですが、どうされますか?」と尋ねられた。綿瀬さんは「自分で飼うなり、里親を探すなりします」と答えた。

 大きな手術のため、費用も結構かかったが、獣医師も相当額を担ってくれたという。

今ではすっかりきれいに
今ではすっかりきれいに

陽気なお調子者

 結局、綿瀬さん夫妻はその猫を引き取り、「トム」と名付けた。手術は無事成功し、ごはんもすぐに食べられるようになった。まるで“口が開くようになって、食べやすいんだぜ”とでも言っているようで、夫妻の不安はなくなったという。

 しばらくは先住猫3匹と離して、別室のケージに入れて育て、だんだんリビングにいる時間を増やし慣らしていった。

「野良猫だった時から陽気なお調子者という感じだったのですが、はじめて他の猫がいるリビングで放した時は、トムのテンションが高すぎて、他の猫は怖がるというより、圧倒されてポカンとしていました(笑)」

 トムはすっかり元気になった。野良育ちのため、おもちゃが新鮮なのか、異様なほど喜んで遊ぶ。

「他の猫を追い回したりするので、なるべく人間相手にハッスルさせたり、おもちゃで遊ばせたりしています。電気で動くおもちゃなんか、ハッスルしすぎてくわえて振り回し、ぶん投げて壊してしまいます」

 いつも血だらけだった野良猫は、すっかり家族の一員になっていた。

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渡辺陽
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。朝日新聞社sippo、telling、文春オンライン、サライ.jp、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。FB:https://www.facebook.com/writer.youwatanabe

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