ほのぼの老犬「おじいわん」 やさしい顔でぽてぽて散歩
やさしい瞳、ぽてぽてと散歩する姿。ある老犬の“好々爺”ぶりが、Twitterでかわいいと人気を集めた。犬の名はソーヤ。おじいちゃんわんこ、略して“おじいわん”のほのぼのとした日常は、フォトブック『おじいわんソーヤ』(講談社刊)になって、老犬の味わい深い魅力を伝えてくれる。
10歳の雑種、ソーヤとの出会い
飼い主の東雲鈴音さんは、ソーヤを迎えるまで犬を飼ったことがなかった。6年前、いきなり10歳の高齢な保護犬を迎えたのは、妹から保護犬について聞いたのがきっかけだった。
「保護犬のことを知って、私が引き取ることができたらと思ったんです」
当初は小型の成犬を探したが、小型犬は希望者が多いことを知った。「それなら私がもらわなくても」と、引き取り手の少ない「10歳以上の雑種」に目が行くようになり、見つけたのがソーヤだった。保護主の家で、大型犬たちに混じって、肩身が狭そうにしていたソーヤを見て、東雲さんはすぐに家に迎えることを決めた。
東雲さん一家に迎えられたソーヤは、すぐにかわいいおじいわんになったわけではない。彼には10年間で3回飼い主が変わったうえ、虐待された過去があった。吠えたり暴れたりはしなかったものの、なかなか心を開かない。
「大きな声を出さない」「怒らない」というルールを家族全員で徹底し、「この人たちは大丈夫」と信じてもらえるようになるには、それなりに時間がかかったという。
犬らしくないところも、個性と受け止める
慣れるにつれてわかってきたのは、おっとりマイペースなのは、本来の性格だということ。じゃれつくことはなく、ボール投げも引っ張りっこも興味なし。東雲さんも「犬はボールを投げさえすれば、くわえて持ってくるもんじゃないの?!」と、最初は驚いたとか。
そんなソーヤが大好きだったのが、散歩。どんなに元気がなくてもリードを見せれば起き出してくるほどで、朝夕、計2時間半の散歩を夫婦で分担し、台風だろうが雪の日だろうが、毎日欠かさなかった。
ときおり電信柱や草むらのにおいをかぎながら、のんびり歩き続ける。はしゃぐことはないが、それでもニコニコ笑顔で歩く姿から、楽しんでいることが伝わった。放っておけば何時間でも歩いてしまうため、「もう帰ろう」と声をかけると、一転して不満そうな顔で渋々帰途につく。
ゆったりとしたペースで散歩をするソーヤと東雲さんを、「頑張ってね」と励ましてくれるご近所さんも少なくなかったという。狭い道を歩くとき、道を譲ってくれる人もいた。ソーヤとの散歩は、「思っていたより、人はやさしいんだなとわかりました」と新しい発見をくれた。
散歩に限らず、できるだけソーヤのしたいようにさせ、犬らしくないところも「個性」と受け入れることができたのは、犬の飼育経験がないことが、かえって変な先入観を生まなかったということと、ある思いがあったからだ。
「ソーヤが私の知らない10年間で苦労したんだったら、うちに来てから先の10年はいい思いをさせてやりたいと思っていました」
犬も年を取ると子どもに還る
残念ながらその10年を迎えることなく、ソーヤは本の完成を目前に控えた今年4月、急に体調を崩して16歳で亡くなった。
老犬を迎えることは、若い犬よりも“その日”が早く来るということ。ソーヤを家に迎えるとき、その不安もなかったわけではない。ただ「時間の長さが、情の深さを決めるわけではない」と考えた。ソーヤとの暮らしは、老犬ならではの魅力も教えてくれた。
「犬も年を取ると、子どもに還るようで、どんどん無垢になる気がしました。私がちょっとでも目の前からいなくなると、ひゃんひゃん鳴いて、『私がいなきゃだめなのね』と思わせてくれるソーヤが、とてもかわいかったです。陳腐な言い方ですけど、老犬のいいところは、『かわいい』と『いとおしい』に尽きるんじゃないでしょうか」
編集担当者にも、この本への思いを聞いた。
「シンプルに『老犬はかわいい』という切り口の本があればいいのに、と思ったのが、この本を作る最初のきっかけです。デザイナーの川名潤さんとイラスレーターの高簱将雄さんと、ソーヤさんの雰囲気を壊さず、できるだけ自然な本にするために、みんなで一緒に作った感じですね。いろいろな人の大切な思い出や心に触れられる本になったらうれしいです」
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