犬は目で語る ジッと見つめるのは、要求や愛情のサイン

「ごはんください」犬は飼い主にお願いをするとき目を見る
「ごはんください」犬は飼い主にお願いをするとき目を見る

 犬をトレーニングするとき、名前を呼ぶと飼い主を見るように練習しておくと、コミュニケーションがとりやすくなります。これを教えるにはまず犬の名前を呼び、すぐにフードを与え、名前を呼ばれたらいいことがあると教えます(この段階では、犬が飼い主を見ていなくてもかまいません)。

 繰り返すと犬は名前を呼ばれたら飼い主を見るようになります。そうなれば名前を呼んだ後、犬が飼い主の目を一瞬でもみたら、「おりこう」と褒めてすぐにフードを与えます。この練習をしておくと、「おすわり」や「ふせ」などの合図を出す前に、まず名前を呼ぶことで飼い主に集中してくれるので、スムーズにコミュニケーションがとれます。

 一方、犬と生活していると、こちらから声をかけなくても犬の方からじっと見つめることはよくあります。これは犬側から飼い主にコミュニケーションをとろうとしている時です。

 人の母子間では乳児が社会的合図として、視線を用いることが知られています。まだ言葉が話せない乳児は見つめることで、母親からの保護行動や養育行動を引き出すのです。

 そのため我々人は生まれつき視線に敏感に反応するように、プログラムされているようです。私たちが食べている時に犬にじっと見つめられ、おねだりをされると、それを無視するには強い意志が必要です。

 近年の研究から、犬は人とのコミュニケーション能力が抜群に高く、他の動物種に類を見ない進化を遂げた動物であることがわかってきました。

 人にもっとも近縁とされる霊長類であり、犬に比べて高い知能を持つと考えられるチンパンジーでさえ理解できない、人の視線や指さしなどの社会シグナルを、多くの犬がいとも簡単に理解します。これは犬が何万年も前から人と生活空間を共有してきたことで、社会的認知能力が高まり、人とのコミュニケーションが可能になったためであろうと考えられています。

 さらに、犬は自力で解決できないような問題に直面した際に、人を見るという行動をみせます。また、犬が見つめることにより飼い主と犬の交流が始まり、交流後の両者のオキシトシンが上昇することが明らかになっています(Nagasawa, Kikusui, Onaka, Ohta, 2009 nagasawa et al 2015)。オキシトシンは出産授乳に必要なホルモンとして有名ですが、同時にストレスや痛みを軽減し、親子間の絆を形成するのにも重要なホルモンです。

 ほとんどの動物種でじっと見つめることはふつう敵対的な意味としてのみ使われますが、犬は人の親子間のように、愛着行動として飼い主を見つめるのです。

 本来犬にとって重要な社会シグナルである嗅覚は、人では退化しているうえ、犬は人で特異的に進化した言語を持たないことから、視線を用いたコミュニケーションを人に対して特異的に活用する必要性があったのでしょう。

 犬は他の動物種と違って、人との長い共生の歴史の中で人と似たコミュニケーションをとることができるように進化してきたと考えられています(B. Hare, M. Tomasello, (2005).)。

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村田香織
獣医師、もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。日本動物病院協会(JAHA)の「パピーケアスタッフ養成講座」メイン講師でもある。「パピークラス」や「こねこ塾」などを主催、獣医学と動物行動学に基づいて人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。

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