200匹超の野良猫との共生さぐる 地域猫活動をはじめた商店街
1500もの飲食店が立ち並ぶ宮崎市の歓楽街「ニシタチ」には、200匹以上の野良猫がいると言われる。衛生上の問題などで長く厄介者扱いだったが、地元商店街はボランティアの力を借り、地域猫として共生していく取り組みを始めた。
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4月末。中央通商店街振興会の岩崎幸治会長(58)が路上で金属製のかごを開くと、キジトラの猫が一目散に走り出した。数秒でビルの谷間に消えていく。
この日、放したのは6匹。前日に商店街で捕獲され、市動物愛護センター(宮崎市清武町)で不妊・去勢手術をした猫たちだ。いずれも耳先にVカットが入っている。
「今いる猫を駆除しても、必ず別の猫が移り住む。どうせいるなら、数を抑えながら共生しようと覚悟を決めました」
振興会には飲食店約400店が加入。以前から捨て猫や悪臭をめぐる苦情があり、岩崎会長は対応を迫られていた。
2017年夏に宮崎市の「飼い主のいない猫の対策事業」がスタート。特定の地域で地元の猫を管理する態勢をとれば、愛護センターが無償で不妊・去勢手術をする仕組みができた。手術をした猫は繁殖しない。発情期の鳴き声も抑えられる。
岩崎さんは、2人の女性の助力を受け、地域猫活動に取り組むことを決めた。
1人は、中央通にあるSGニシタチ不動産の上野広美専務(50)。5年ほど前から店の前にトイレを置き、朝昼晩、猫たちにエサを与えている。もう1人は「宮崎市猫TNRボランティアチーム」の事務局を担う山本清美さん(51)。
岩崎さんはこの2人に加え、隣接する上野町の女性2人とともにボランティア団体「上野町猫食堂」を立ち上げた。2カ月に1度、猫を捕獲し、愛護センターに持ち込み、手術後、捕獲した場所で放している。
「ノウハウも捕獲器も山本さんと上野さんが持っていた。振興会には私が説明し、エサをやる店はトイレを設置するよう依頼した」
「猫食堂」の代表に就いた山本さんが近隣の西橘通の振興会などにも働きかけ、今春からはニシタチの五つの地区で地域猫活動を展開している。
空前の猫ブームで、若い女性がニシタチの猫をSNSに載せる姿も見られる。
岩崎会長は「インバウンドの影響もあり、ニシタチは、ランチなど日中の営業に力を入れている。いずれ『夜の街』を脱皮し、24時間態勢になる。猫たちは多様なお客を癒やしてくれるはずです」と話す。
バーのアイドル猫、蹴られて?片肺つぶれる 客らが治療費寄付
ニシタチには「アイドル猫」もいる。昼は路地裏の階段や自販機の裏に潜み、ネオンが輝く夜になると、ぞろぞろとバーに「出勤」し、お客にあいきょうを振りまく。だが、彼らの生活は危険と隣り合わせだ。
「こっち向いてー!」
中央通のショットバー「Oak」で、女性客らが黒猫2匹をあやしていた。
マスターの岩切崇さん(49)は「こいつらは1歳3カ月くらい。生後1カ月から店に居着いています」と話す。
この店では猫はフリーパス。営業中、ドアをほんの少し開けてあるので、自由に出入りできる。入り口の外側に設置したトイレでは、閉店後も雨露をしのげる。「昔から人間社会に猫はつきもの。仲良くした方がいいんです。飲食店街には迷惑なネズミやゴキブリの天敵でもあるし」
子猫をみつけると、離乳まで世話をし、常連客や同業者から里親を探す。
だが、猫の命と向き合うと、悲劇にも直面する。今春、「事件」は起きた。
岩切さんが出勤すると、店の前で見慣れた猫がぐったりしていた。
「おい、どうした!」。
人なつっこく、お客にも大人気のサブだ。呼吸が荒く、速い。重病だと考え、翌日、動物病院に連れて行った。
獣医師はレントゲンを見て「片方の肺がつぶれ、横隔膜が傷んでいる。誰かに蹴られたな」と話したという。開腹手術が必要だが、手術中に死んでしまうかもしれない――そんな見立てだった。数日後、祈るような思いで手術に踏み切った。
翌日、サブを引き取りに行くと、目に力が戻っていた。
「がんばったな。もう大丈夫だぞ」
てんまつをSNSで発信すると、サブが出入りしていた他の店のママや出入りの業者、常連客らから次々に寄付金が寄せられた。治療費約20万円のうち、半分を寄付でまかない、残りは自腹で払った。
「サブは甘えん坊だから、元気になったら里親を探してやりたい」
ニシタチにも猫が嫌いな人はいるし、もとより酔客は少なくない。「猫食堂」のメンバーは、サブとは別の猫が男性に蹴られるのを目撃したという。交通量が多いため、事故に遭う猫も多い。病気や栄養不足に陥ることもある。「猫食堂」は猫の治療費のため、協力店に募金箱を置く活動も始めている。
(佐藤修史)
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