小学生が猫の保護活動 送り出しても、もう泣かない 幸せ願う
猫の保護活動をしている小学生、中山渚美(なちゅら)ちゃん(10歳)。その様子が注目され、この春、児童書として出版された。1年半ぶりに会いにいくと、少し大人びた姿がそこにあった。
「今、2階に妊婦猫がいて、もうすぐ赤ちゃんが産まれそうなの」
東京都内の自宅を訪ねると、渚美ちゃんが、少し落ち着かない様子で迎えてくれた。出産を控えた猫は、千葉県の成田にいた野良猫だという。
「1歳になってないのに、お母さんになっちゃった。千葉の団体さんが保護して、うちで預かることになったんだけど、一階は猫がいっぱいで、私の部屋を妊婦さんに貸したんです」
「出産を手伝うの?」と尋ねると、大きく首を横に振った。
「猫のストレスになってはいけないので、子猫を生んだら、何ごともなかったようにそーっとしておくのが大事。お母さん猫はだいたいピリピリするから、こっちの気配を消して見守るのがいいの」
母とともに100匹以上
はきはきと受け答えする渚美ちゃんは、小学5年生になっていた。
幼稚園の頃から母の亜子さんと2人で100匹以上の猫を保護。1年生の時に友達と結成した、野良猫や地域猫を見守るグループ「猫パトロール隊」としても、20匹以上の命を救ってきた。
亜子さんによると、渚美ちゃんはこの1年で身長が4~5センチ伸びた。それだけでなく、内面もちょっと変化があったようだ。たとえば、以前は保護した猫を新しい家に送り出す時に泣いてしまうこともあったが、今はニコニコと笑顔で見送るのだという。
「こなれたのかな?(笑)」という母の声に、「違うよ」と答える。
「猫が新しいお家に行った後に、顔が優しくなったり、体が大きくなったりした写真が送られてくると、ああ、ちゃんと育ってるー、よかったーって、心から思うようになったんだよ」
その一方で、動物に冷たい対応をする大人を見る目は厳しくなったらしい。
昨年、近所の団地で子猫がうずくまっているという連絡を受けて駆けつけると、猫にはウジが湧いて骨まで見えていた。病院に連れていこうとすると「あなた、ずいぶんやさしいのね」と団地の人に声をかけられ、ショックを受けたのだという。
「どうしてあなたはやさしくなれないの、って逆に思ったよ。その猫ちゃんは次の日、死んだの。いろんな大人がいるってことがわかってきたんだ……。動物が好きでない人もいるし、ウソをつく人もいる。だから猫を渡す時は、しっかり相手を見ないといけないの」
「たとえば、一人暮らしのお年寄りが『子猫が欲しい』と言ったらどうするの?」と聞いてみた。
「子猫でなくシニア猫はどうですかと聞く。猫は20歳まで生きることもあるから、その時、おばあちゃんはいくつ? おとなの猫と暮らす道だってあるはずでしょ。おとなの猫も、かわいいんだよって伝えたい」
言動が大人にも影響
近頃では、イベントで体験談を話したり、母とは別に譲渡会に参加したりと、新しいことにも挑戦している。すべては「猫の幸せのため」なのだという。
渚美ちゃんの猫へのあふれる思いや活動の様子は、今春、児童書『すてねこたちに未来を』にまとめられた。半年近く渚美ちゃんを取材して執筆した作家の菅聖子さんに印象を聞いてみた。
「ふつうの小学生のように子どもらしい面もあるけど、赤ちゃん猫にミルクを飲ませたり、おしっこを促したり、甲斐甲斐しくお世話をする姿を見て、すごいと思いましたね。私も猫を飼っているのですが、実は、野良猫の捕獲の仕方や譲渡会、TNRについて初めて知りました。人間以外の命に寄り添う重みや大切さを教えてもらった感じです」
渚美ちゃんと出会って影響を受けた大人もいたと菅さんはいう。
「話を聞いて『猫をもらって幸せにするだけでなく、自分でも保護しよう』と考えた女性がいらして。取材に行ってみたら、その女性は、地方の実家近くにいた野良猫を7匹捕獲し、東京に戻って譲渡会に参加したんです。その結果、5匹の家族が見つかった、と喜んで話してくれました」
少女の熱い思いと行動が、周囲の大人まで動かすようになっていた。
(撮影・友永翔大)
- 『すてねこたちに未来を』
- 著者:菅聖子
発行:汐文社
体裁:A5判、112ページ
定価:1500円+税
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