視覚障害の男性、支え合い猫のTNR活動 猫の搬送にはタクシー
飼い主のいない猫を捕まえて(Trap)、不妊・去勢手術を施し(Neuter)、もとの場所へと戻す(Return)「TNR活動」。一代限りの命を全うさせ、不幸な猫を減らすためのこの活動に、視覚障害を抱えながらも取り組む男性・西村翔さん(32)に話を聞いた。
(末尾に写真特集があります)
西村さんは、三重県桑名市在住。自宅の庭と、父と友人と共同で経営を始めたコンビニの2箇所でTNRのための捕獲を行う。子猫やケガをした猫など、外での生活が困難と判断したらそのまま保護。取材日現在、西村さんの自宅には、飼い猫として迎えた猫4匹と、新たな飼い主を探している猫9匹の、合わせて13匹がいる。
コンビニに現れる猫たち
TNR活動を始めたのは、コンビニを開業後の2015年から。夜間勤務中に猫がやって来るようになったのだ。最初の1匹は、片目を失った長毛猫。次はきょうだいの子猫。その後も、新たな猫が現れ続け、店舗裏の休憩スペースへ誘導しながら世話をした。
そのうちにいなくなってしまった猫もいた。家族に迎えようかと考えていた猫が自宅近くで交通事故に遭って亡くなったときは、父と泣きながら、火葬場まで手を合わせに行った。
「猫が外で暮らす過酷さを、ボランティア団体に所属する友人(現在、「瀬戸地域ねこの会」代表)から聞いたり、ネットで見たりしながら、TNRをしてみようと決意しました。飼い主のいない猫を減らしたい、救いたい。自分にできる範囲でやれることを精一杯やっていこうと思ったんです。幼少期に、病気の犬猫たちをきちんと助けてあげられなかった後悔もあった。でも、今なら自分の判断と収入で、外にいる子たちを助けることができるから」
捕獲した猫を動物病院へ搬送するためには、車での移動が必要になる。しかし、西村さんは生まれつき視神経に異常があり、視力が弱く視野が狭い。眼振や乱視も伴い、運転免許を取得することができない。
「幼い頃から親父と大きな病院をいくつも回り、何度も検査を繰り返ししてきましたが、『今の医学では視神経は触れない』という結論がどこも同じでした」
免許なしで、個人でTNR活動を行うことは難しいと判断。しかし、西村さんが住む桑名市内で協力を仰げるボランティア団体を探しても見つからなかった。その後、たまたま知ることになった愛知県内の団体を通じて四日市市の団体を紹介してもらい、同市内で協力関係にある動物病院で安く手術してもらえることになった。
「動物病院まで、団体に所属する方と母に搬送と迎えをしてもらい、ボランティアさんに受付をしてもらっていました。ですが、渋滞で1時間近くかかっていたので、猫と送迎してくれる人への負担を考え、手術費がかかっても桑名市内の病院へ通うことにしました」
とはいえ、ケガや病気で急いで保護をする場合もある。市内で手術を受けるにも、仕事を持つ家族と都合がつかないことも出てきた。
西村さんは「悩んでも仕方ない」と、タクシーも活用することにした。
朝に勤務を終えて猫の世話
店の近くで捕獲した猫は、ほとんどタクシーで搬送する。TNRや保護にかかるお金は全て自費。当然タクシー代も負担することになる。にもかかわらず、加えて、行政やボランティア等と協働でTNRを行う「公益財団法人どうぶつ基金」へも毎月寄付している。
「毎月5千円の引き落としのつもりでしたが、ダブって登録してしまって倍に。『ま、猫のためだからいっか!』と、そのままにしてます(笑)。猫にお金をかける分、自分にはかかっていません。食事はコンビニで済むし、仕事着と部屋着しか着ない。肌着などは、『しまむら』と『あかのれん』でしか買っていません。それでいても毎月ぼちぼち赤字ですが(笑)」
コンビニには、深夜0時半から翌朝11時頃まで勤務する。帰宅後、自宅の保護猫たちの世話をし、眠るのは19時頃。TNRがあるときは、さらに自由な時間を削る。猫が中心の生活だ。
「僕は未熟ながら“個人ボランティア”ということになると思うんですが、家族に通院の足になってもらったりもしますし、ボランティア団体の友人やメンバーや、活動を知ってブログやSNSで紹介してくれたりする方などに、いつも助けられています。ひとりじゃなく、『いろんな人に支えられているからこそ続けられるし、やろう!』という気持ちになるんです」
都市部と比べて、猫のためにボランティア活動をする団体や個人は少ない。西村さんは、「TNR活動の周知のためにも、同じように活動する方たちへ呼びかけて、横の繋がりを増やしたい」と言う。
「ほかにも捕獲や保護を個人でやっている方や、『猫がかわいそうだけど自分に何ができるのかわからない』という人もいらっしゃると思います。自分で出来ることから知ってもらい、いっしょにやってもらう。それが広まり、理想は行政にも参加してもらうことで、地域として今よりもっとよくなるんじゃないのかなと」
(本木文恵)
撮影/tomo
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