幼い犬猫販売規制の判断材料、環境省が記述ないのに「引用」
今月7日、環境省のホームページにこんな文が掲示された。
「誤りがありました。お詫(わ)びするとともに訂正いたします」
同省は前日の6日、超党派国会議員の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」にも同じ趣旨の文書を提出。「配布した資料の一部に不適切な表現が含まれていることが判明した」とした。
環境省が訂正・おわびしたのは、ある数字をめぐる統計学的な判断の「根拠」についてだ。成長後の問題行動を防ぐため、幼い犬猫の販売規制を現在の生後49日(7週)から56日(8週)に強めるかどうかの判断材料として同省が示していた。
環境省は、ペットショップで販売された子犬・子猫に関するアンケートとその解析を専門家に委託。その結果をもとに、7週と8週の違いと問題行動の発生の程度の間に「関係性は証明されなかった」と結論づけた。幼いうちに犬猫を販売したい一部のペット関連業界団体はこの結論をもとに、動物愛護法改正での販売規制強化に反対。一方、法改正で56日への強化をめざす議連は結論について同省に詳細な説明を求めた。
これに対して環境省は、結論を導いた根拠の一つとして挙げた「決定係数」と呼ばれる統計学上の数値の考え方について、放送大学のテキスト「社会調査の基礎」が出典だと議連に文書で回答。環境省のホームページに載せた資料でも、この本を「出典」と明記していた。ところが、実際はこの本に該当する記述はなかった。環境省は「直接的な引用ではない文献に対し、『出典』と表記」したと認め、本に出てくる用語や数字を独自に「変換」(同省)したとも明らかにした。
出典が違っただけでなく、専門家の間には数字の評価そのものにも疑問の声がある。環境省は、7週と8週の間で問題行動に差があるかについて、文書で結論づけた部分のすぐ下に「決定係数が0.04以下は、統計学では『ほとんど相関がない』と解釈される」と注記した。
だが、「統計は暴走する」などの著書がある佐々木彈(だん)・東大教授は「統計学の関係者の間で『決定係数0.04以下』で線引きするという共通認識は存在しない。値が小さいからといって関係性がないと断言できたりする性格のものではない」と指摘。「社会調査の基礎」の執筆者、大塚雄作・京大名誉教授も「決定係数は一つの目安に過ぎない。小さな決定係数でも意味のある関連性が潜んでいることも少なくない」と話す。
環境省動物愛護管理室は「出典元を捏造(ねつぞう)する意図はなかった。間違った。直接的な引用ではないのに『出典』としたのは不適切だった。(7週と8週で問題行動に差がないとする)検討結果は総合的に判断した」とする。だが、政策判断の根拠の一つとなる統計学上のデータの扱いに疑問符が付けられたことは間違いない。
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