米国の裁判所で活躍する犬 証言する子どもに寄り添いサポート

コートハウス・ファシリティー・ドッグ、ケリス
コートハウス・ファシリティー・ドッグ、ケリス

 アメリカでは、人を助ける犬たちの活躍の場は司法の世界にも広がっている。「コートハウス・ファシリティー・ドッグ」(コートハウスは裁判所のこと)だ。

証言する子の不安 犬が寄り添いしずめる

 犬たちの役割は、犯罪被害者や目撃者(主に子ども)が、事件について聞き取りをされる司法面接を受けるときや、裁判所で証言する際などに、そばに寄り添って不安をしずめ、精神的にサポートすること。

 裁判所の証言台に立つというのは、大人でも大変な緊張を強いられる経験だ。ましてや子どもにとってそれがどれほど怖いことか想像に難くない。そんなとき、すぐそばに穏やかな犬の温かな体のぬくもりを感じられたら、どんなに気持ちが落ち着くだろう。

 また、犬たちはドラッグコート(薬物に関わる犯罪をした人に刑務所に行く代わりに治療を義務付け、そのプロセスを監督・支援する仕組み)などの場でも参加者の心情安定を助ける役割を担う。

 コートハウス・ファシリティー・ドッグはAssistance Dog International(ADI) の認定団体による高度な訓練を修了し、司法面接担当者、検察官、警察官など司法関係者のハンドラーとペアになって活動する。もちろんハンドラーも訓練を受け、ADIのテストを受けてパスしなければならない。犬と人がともにパスして初めてチームとして公共の場で活動できることになっている。

裁判所を歩き回る犬 場の緊張が緩んだ

 私が見学させてもらったワシントン州キツァップ郡裁判所のドラッグコートでは、ケヴィン・ケリー検察官がケリスというコートハウス・ファシリティー・ドッグとともに、参加者の間を歩き回っていた。不機嫌そうな顔をしていた人や不安そうにうつむいていた人が、ケリスを見ると笑顔になる。明らかに場の緊張が緩むのがわかった。

ドラッグコートでのケリー検察官とケリス
ドラッグコートでのケリー検察官とケリス

 ドラッグコートの判事はこう語る。

 「最初私のコートに犬が来ると聞いたときは、ほんとうにセラピー効果があるのかしら、と半信半疑でした。それが、犬が来たとたん参加者が皆リラックスするのをこの目で見て、効果があると確信したのです。通常のドラッグコートでは、騒いだり叫んだりするような人もいるのですが、犬がいるときはいっさいありません。とてもよく訓練された穏やかな犬なので、怖がる人も見たことがありません」

ドラッグコート参加者を和ませるケリス
ドラッグコート参加者を和ませるケリス

8歳の姉妹、「犬がいてくれるなら」と証言に同意

 コートハウス・ファシリティー・ドッグを考案したのは、シアトルの検察官だったエレン・オニール・スティーブンス。2003年、性的虐待を受けた8歳の双子の姉妹の証言を得るため、自分の息子の介助犬だったジターという犬を連れてきたところ、それまでいっさい口を閉ざしていた二人が「犬がそばにいてくれるなら」と証言することに同意したのだ。

 子どもの犯罪被害者という、司法の場でもっとも弱い立場にある人たちを支える犬の力を目の当たりにした彼女は、その後も実践を重ねた。そして、2008年、獣医師のセレステ・ウォルセンとともに「コートハウス・ドッグス LLC」(2012年からはコートハウス・ドッグス財団)を設立。

 司法の場に犬を介在させるメリットについて、司法関係者だけでなく広く一般に向けて啓発活動をおこなうとともに、導入を考えている司法機関や民間団体へのガイダンスや助言もおこなっている。現在コートハウス・ファシリティー・ドッグは、アメリカのほかにカナダ、チリにも広まっている。

犬の衛生管理を徹底、犬が苦手な人にも配慮

 アメリカでも、すべての人が犬好きというわけではない。アレルギーのある人や犬が怖いという人たちもいる。だが、コートハウス・ファシリティー・ドッグは、介助犬や盲導犬と同じように、公共の場にどこでも行けるパブリック・アクセスを認められた犬たちだ。

 犬の衛生管理を徹底し、犬が苦手な人たちとは距離を取るなどの配慮もしつつ、コートハウス・ファシリティー・ドッグは徐々に受け入れられてきた。2019年3月11日の時点では、アメリカの39の州で201頭の犬が活躍している。

 犬が裁判所にいる      日本では考えられない光景だろうか?

◆大塚敦子さんのHPや関連書籍はこちら

大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この特集について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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