「まるで猫セラピー」 柴咲コウさんが語る「ねことじいちゃん」

「カメラ前なのに、どうしても、顔がにやけちゃうんです」。ほぼ全てのシーンに猫が登場する映画「ねことじいちゃん」(岩合光昭監督、2月22日公開)で、ヒロイン役を演じた俳優・柴咲コウさんが単独インタビューに応じてくれた。大の猫好きゆえに撮影では戸惑いもあったが、「猫セラピー」のような作品に仕上がったという。

映画から (c)2018『ねことじいちゃん』製作委員会
映画から (c)2018『ねことじいちゃん』製作委員会

人生と「ニャン生」が交錯する物語

 美しくのどかな島を舞台に暮らす、人と猫。その穏やかな生活ぶりをあたたかな視線で、時にはユーモアを交えて描くこの映画は、人気マンガ「ねことじいちゃん」〈ねこまき(ミューズワークス)作・KADOKAWA刊〉が原作だ。

 主役の大吉は島の小学校の元校長先生。2年前に妻に先立たれ、一人息子は独立した。今は愛猫のタマとのんびり“ふたり暮らし”をしている。近所には気ごころの知れた友人ばかり。そんなのどかな島に、ある日、都会から美しい女性が移り住んできて……とストーリーは展開していく。

 ヒロインの美智子を演じた柴咲さんは大の猫好きとして知られる。

「猫と人がそれぞれに主役であり、お互いの生活や生き様がこんなにも交差する映画って、今までになかったんじゃないかと思います」

 もともと岩合さんの大ファンでもあったという。

「その初監督先品で、もちろん猫が主役だと聞いて、一も二もなく出演を決めた、っていう感じでした。だってそうでしょ?『初監督作品』っていうのは、一度しかないんですから!」

 映画は全編、ほぼすべてのシーンに猫が登場する。タマや仲間たちのシーンはもちろん、漁港の風景にも、子どもたちが朝礼をしている小学校の校庭にも、何気ない路地にも、どこかに、猫がいる。

「出演しているのはタマ役のベーコンをはじめ、33匹のプロの役者猫たち。もう、パラダイスでしたよ!(笑)」

作品について語る柴咲コウさん
作品について語る柴咲コウさん

多くを語らないからこそ、深い。

 美智子は、ある日ふらりと島に現れ、島の一軒家にカフェを開く。初めは遠巻きに見ていた島の人々も、美智子の飾らない笑顔と次々と並べられる料理の数々にすっかり魅了されてしまう。

「美智子はどこから来たのか。なぜたったひとりで島へ来たのか。具体的なことは何にも語りませんが、そこがいいんだと思うんです。最後のほうでぽつりと『(この島へ来て)つぶれていた心が、ちょっと膨らみました』っていうセリフがあるんですが、それで十分。きっと何かつらいことや迷いがあってここへ来たんだろうな。それがどんなことなのかはわからないけれど、島へ来て元気を取り戻したんだな、っていうことがわかればいい」

 観る人に自由に想像してもらえばいい。そして「自分のことかも」と思ってもらえたら、というのだ。

「映画を観ている方も、きっと毎日、何かと戦ってる。仕事でもプライベートでもいろんなことがあるだろうけど、美智子の姿に自分を重ねて、元気になってもらえたらうれしいですね」

映画から (c)2018『ねことじいちゃん』製作委員会
映画から (c)2018『ねことじいちゃん』製作委員会

幸せだった「猫との撮影」

「あんなにたくさんの猫たちと共演したのは初めて!」

 話題が猫のことに及ぶと、柴咲さんの笑顔は一層大きくなった。動物プロダクションのスタッフが出払っている間、猫のトイレが汚れていることに気づいた柴咲さんが、率先して掃除したこともあったとか。そんな柴咲さんの猫愛ぶりには、岩合監督も感心しきりだったそうだ。

 撮影は猫のペースに合わせて行われたという。

「演技といっても、猫は猫。緊張したり嫌なことがあったりすれば、すぐ表に出てしまう。本当にそこで暮らしているような、自然な姿が撮影できているのは、岩合監督ならではですよね。ぱっと撮って『ハイ、次!』っていう、人間の都合で進めるようなやり方はしていないんです。じっくりとカメラを回して、猫のペースに合わせてゆったり時間をとって。贅沢な撮影ですよ」

 だが、猫好きならではの苦労もあったそうだ。

「猫たちの予想外の動きがとても可愛らしかったり、美しかったりする。そんな貴重なシーンを、人間の動きでNGにしちゃいけないと思って必死でした。だいたいね、どうしても顔がにやけちゃうんですよ。カメラの前でこんなにとろけた顔していていいものかと、最初は戸惑いました」

 普段は「鎧を着るかのように衣装を着て、ヘアメイクをして、カメラの前に立つと、役者としてのスイッチが入る」というが、今回はどうしても猫好きの「素の自分」が出てしまったのだという。

「そもそも顔合わせ・本読みの段階から、岩合監督に『自然体でいてください、お芝居しないでください』と言われていました。監督は人と猫のありのままを撮りたいのだな、と。なので私も自分の心の素直なまま、感じるままに、猫を愛する気持ちでカメラ前に立っていました」

映画から (c)2018『ねことじいちゃん』製作委員会
映画から (c)2018『ねことじいちゃん』製作委員会

「何もない贅沢さ」に癒される映画

 舞台となった島は、文字通り「何もない」ところだ。ただそこにあるのは美しい海。四季折々のうつろい。コンビニすらない集落に黒塀の民家が並ぶ、日本の原風景のような場所だ。

「何にもない=つまらない、と思う人もいるかもしれないけれど、私にはそれがこの上なく贅沢なことに思えて。いらないものをどんどんそぎ落とした、シンプルな生き方が映画の中に凝縮されています。私が一人、映画館で観たらそれだけで泣いちゃうかも(笑)。そういう意味では、猫好きの人にとっては猫セラピーのような映画だし、そうでない方にも、島や人の美しさや優しさに癒されてほしい。観る人の数だけ、魅力のある映画だと思います」

『ねことじいちゃん』
公開日: 2019年2月22日(金)
原作:ねこまき(ミューズワーク)「ねことじいちゃん」(KADOKAWA刊)
出演:立川志の輔、柴咲コウ、小林薫、田中裕子 ほか
監督:岩合光昭  脚本:坪田文
配給:クロックワークス
(c)2018「ねことじいちゃん」製作委員会

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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