夜逃げした部屋に残された子猫 不動産業者の善意で命拾い

 借金のためか、自己破産などの処理をせず、突然姿を消してしまう夜逃げ。大阪のとあるマンションでは、飼い主がいなくなった部屋に、子猫たちが取り残されていた。生き延びた子猫たちは不動産業者の善意によって命を救われた。

(末尾に写真特集があります)

 大阪府内のあるマンション。何らかの事情で飼い主が夜逃げした後、不動産業者が合鍵を使って室内に入った。ペット不可のマンションだが、部屋には4匹の子猫が残されていた。すでに1匹は餓死。3匹は生きていた。親猫は連れていかれたのか、どこかに逃げたのか、姿はなかったという。

 そこにいるのは、血が通った温もりのある動物。だが、こうした場合、「不法投棄されたモノ」として保健所に送られ、処分されかねない運命だ。

 ただ、このマンションを管理する不動産業者は、子猫たちを行政には渡さず、保護団体「ワンハート大阪」に連れて行った。おかげで3匹の子猫は命拾いをした。このうちの1匹が、その後の「ヤト」だ。

ママの鞄の中、落ち着くんだ
ママの鞄の中、落ち着くんだ

 大阪府内に住む岡田さんは、ペットショップで買った猫「もぐちゃん」と暮らしていた。1匹では可愛そうだと思い、もぐちゃんが2歳になる1カ月前、2匹目を飼おうと思い立ったという。

「今度は譲渡会に行ってみようということになったんですが、押し付けられるんじゃないかとか考えると、不安でした。参加するだけでお金を取られるところもあるし……」

 だが、ワンハート大阪の対応は違っていたという。

「“時間があったら来てください”という感じで、気楽に参加できて、お金もかからない。行ってみると、1匹1匹の性格やどんな遊びが好きかといったことが詳しく書いてあり、安心できました」

 譲渡会で岡田さんにすぐ寄ってきたのが、生後半年の子猫だった。淡い毛色の猫を希望していたのだが、濃いめの毛色の子猫と出会ってしまった。しかし、岡田さんは、なぜかその子猫に惹かれて、トライアルを申し込んだのだという。

絵になる2匹
絵になる2匹

 トライアル初日、先住猫のもぐちゃんは「シャーッ」と声をあげて、新入り猫を威嚇した。生後半年の子猫と2歳の成猫。体格は明らかに違ったが、けんかすることもあった。もぐちゃんは岡田夫妻にも敵意を持ったかのようで、夫妻は困惑したという。

 しかし、5日目ほどすると、2匹は落ち着きはじめ、鼻先をくっつけて臭いを嗅ぎ合い、近づいたという。その後、年長のもぐちゃんが子猫をなめてあげるようにもなった。

 岡田夫妻は、好きなアニメにちなんで、子猫を「ヤト」と名付けた。夜逃げの部屋に残されていた子猫ヤトは、元気に育ち、1歳になった。今では2匹は無くてはならないパートナーになっている。

ワンハート大阪
家族の一員として大切にされる存在な一方、営利目的で産み落とされ、身勝手な飼主の都合で捨てられる犬や猫。行政の処分所へ持ち込まれ、死を待つことしか与えられず、虐待されても物言えぬ彼ら。
この悪循環を作り出しているのも人間ですが、その悪循環にストップをかけられるのも人間です。ワンハート大阪は、一匹でも多くの命を守り、その命が尽きる最期に「ありがとう」を伝え、あの子達に「ありがとう」と言ってもらえる活動を目指しています。
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渡辺陽
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。朝日新聞社sippo、telling、文春オンライン、サライ.jp、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。FB:https://www.facebook.com/writer.youwatanabe

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この連載について
幸せになった保護犬、保護猫
愛護団体などに保護された飼い主のいない犬や猫たち。出会いに恵まれ、今では幸せに暮らす元保護犬や元保護猫を取材しました。
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