相棒猫を失い、急に甘えん坊になった猫 その姿に募る切なさ

   仲間がいなくなると、猫もペットロスのような状態になるといわれる。鳴いて探し回ったり、食欲を失ったり……。相棒猫の死後、急に飼い主に甘えだした猫がいる。そして、その甘える姿が、飼い主を後悔させることにもなった。

(末尾に写真特集があります)

   埼玉県に住む佐藤ゆかりさん(60)宅を訪ねると、居間のソファにペルシャ猫の「クラン」(メス、推定7歳)が座っていた。

   クランは鎌倉の経営破綻したブリーダーのもとから、他の猫と一緒に救出された猫だ。縁あって3年前、もう1匹の年長のペルシャ猫「カマン」とともに佐藤家にやって来た。

 2匹は姉妹ではないが、血縁関係にあり、よく似ていた。仲が良く、食事の時も、昼寝の時もいつも寄り添っていた。

佐藤さんの膝で甘えるクラン
佐藤さんの膝で甘えるクラン

相棒猫に起きた変化

   その一方のカマンが昨年9月、家族みんなに看取られて旅立った。

「カマンはもともと耳が弱かったのですが、昨夏から食欲がなくなり、病院通いをしていました。ボランティアさんからは推定5歳と聞いていましたが、かかりつけの獣医さんには、繁殖を繰り返して10歳を超えていたかもしれないと言われました。晩年は衰弱して紙おむつで寝たきり、その状態でもクランは寄り添っていたんですよ』

   相棒のカマンの死後、クランに変化が起きた。

「“また病院なの?”“まだ戻らないの?”とでもいうようにカマンを探し回り、私の膝に乗ってグルグルと喉を鳴らしたんです。それまでクランは私に甘えることがなかったんです。猫にも人と同じように寂しいという感情があるのだと知りました」

 そんな姿に触れると、佐藤さん自身も切なさが募り、後悔にさいなまれることになった。

上からクラン、ウイスキー、元気な頃のカマン、シャンパン (佐藤さん提供)
上からクラン、ウイスキー、元気な頃のカマン、シャンパン (佐藤さん提供)

新たに迎えた若い猫

   実は昨年4月、まだカマンが元気だった頃、佐藤家は34匹目になる保護猫の兄妹を引き取っていた。

「ウイスキー」(オス)と「シャンパン」(メス)という生後半年の長毛の雑種。カマン、クランと同じ保護猫カフェ「ねこかつ」(川越市)で出会った猫だ。

「カマンたちが家に来て3年がすぎ、落ち着いたので、もう1匹飼いたいと家族で話して、カフェを訪ねました。そこでシャンパンに会いました。夫の希望は女の子で、娘も気に入って『この子がいいね』と」

   カフェの店長はウイスキーという兄猫がいると紹介してくれた。とてもおとなしく、人目にふれない別のブースにいたのだ。佐藤さん一家は「引き離すのも可哀想だ」と、兄妹そろってのトライアルを申し出た。

女子同士、クランと仲良くなったシャンパン
女子同士、クランと仲良くなったシャンパン

若い猫と先住猫の棲み分け

「若い猫2匹と先住猫2匹で、最初はリビングと和室に離れて過ごしていました。ところが慣れてくると、若い組が動き始めました。とくにウイスキーはビビリからアクティブに大変身して、無邪気に先住組に近づいて」

 若い2匹はバタバタと音を立てて追いかけっこ。部屋中を駆け回り、ソファで寝ているカマンやクランを飛び超える。いじめるようなことはなかったが、若い2匹の運動量は想像以上で、先住組はあっけにとられたようだった。

   一家は、カマンたち先住猫の安眠を守るため、出かける時や夜間は、後輩2匹をケージに入れることにした。

 その作戦はうまくいき、ウイスキーとシャンパンは夜11時頃になると、自分でケージに入り、朝8時頃までは静かに眠るようになった。その間はカマンやクランも静かに休めた。

   この棲み分けでうまくやっていけるだろうと、1カ月のトライアルを経て、ウイスキーとシャンパンを正式に家族に迎えた。

 先住猫たちもその暮らしに慣れたようだった。だが、カマンは暑くなる頃、足腰が弱り、体調を崩していった。そして旅立っていった。このため佐藤さんは自分を責めた。

「若い子たちを連れてきてカマンに無理をさせたのかな。申し訳ない。と、ひどく落ち込みました。もし若い子がいなかったら、もう少し長生きできたかなと……」

ソファの縁に乗るクランとシャンパン (佐藤さん提供)
ソファの縁に乗るクランとシャンパン (佐藤さん提供)

3匹の関係に変化

   ひどいペットロスに陥った佐藤さんを支えたのは家族だった。

「娘が『先生も老衰といっていたし、2匹がカマンをいじめたわけでもないでしょう。気にしすぎだよ、おかあさん』と言ってくれました」

 その後、クランは自ら同じメスのシャンパンに近づくようになった。以前カマンとそうしていたように、和室の座布団で一緒に寝たり、リビングのソファに並んで乗ったり……。2匹が打ち解けていく様子に、佐藤さんは救われたという。

「カマンはわが家で3年しか過ごせなかったけど、『来てくれてありがとう』という気持ちで、今はいっぱいです」

 さらに佐藤家はその後、自宅の庭に現れたケガした野良猫(オス)を保護して、そのまま家猫にした。ウイスキーはこの元野良猫にくっついて、クランはシャンパンとの距離をさらに縮めている。

「女子同士、近頃はしょっちゅう一緒です。猫がまた増えたけど、クランはそんな環境の変化に順応して、なんだか、たくましくなったみたいですよ」

 天国のカマンも、安心してクランと仲間たちを見守っていることだろう。

(庄辛琪・撮影)

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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