曲にもなった愛猫「モイ」 まさかの発病、懸命な治療で快復

   NHK・Eテレ「0655」「2355」などの軽やかな楽曲で知られるギター・ウクレレ奏者で作曲家の近藤研二さん(52)。大の猫好きで、2015年暮れにはアルバム『子猫のロンド』を出した。その表題曲のモデルになった子猫は、その後、重い病と闘っていた。

(末尾に写真特集があります)

   柔らかな光が差しこむ昼下がりのリビングルーム。白とグレーの美しい長毛の猫がたたずんでいる。モイ(39カ月、オス)だ。

 近藤研二さんと妻のカーコさんが優しい眼差しをモイにむける。テーブルにはモイのためのノートがあり、日々の様子が細かな文字でぎっしりと記されていた。

「ここ最近は体調が落ち着いていて、体重も少しずつ戻ってきました」

 モイは2年前の1月から難病と闘っている。

近藤さんと、トンネルで遊ぶモイ
近藤さんと、トンネルで遊ぶモイ

1歳でまさかの発病

「いつも人用トイレにうんちを流すのですが、たまたま流し忘れて、水が血液で赤く染まっているのに気づいたんです。病院にいったら腸に影があり、腎臓も黒くなっていて。精密検査をしたら『悪性リンパ腫でしょう』といわれました」

   モイはその時まだ1歳9カ月、元気な盛りに「まさかの宣告」だった。その日から治療が始まった。

   カーコさんがつけていたモイの成長記は闘病記となった。近藤さんのインスタグラムの内容も変わった。近藤さんは隠すことなく、モイの病状を発信し続けた。

「猫が具合悪い時に伏せる方もいると思うけど、僕は公にした。SNSがあったからこそ、今のモイがいると思う。皆に見守られ、よい情報を教えてもらい、千羽鶴なんかももらって……」

   最初に使った抗がん剤が3回目くらいから効かなくなった。最終手段のような強い薬を先生に勧められて悩んでいる時、インスタグラムのコメントに免疫療法(リンパ球を血液から採って培養、活性化させて体内に戻す)のことが書かれていて、近藤さんも自分で調べてみた。

「通える範囲のところに病院を見つけ、丸山ワクチンとともに始めたんです。いくつも病院を回り、いろいろな人に意見を求めましたね。どうしてもモイを助けたくて……」

  モイは近藤さんが結婚して2番目に迎えた猫だ。

「妻がネットで保護された生後10日の猫を見つけ、僕もその写真を見た時にピンとくるものがあり、譲渡の申し込みをしたんです。小さくて可愛くて尊くて。子猫のモイを迎えにいって東京に戻る途中、いろんな思いが巡り、笑顔に涙が浮かびました」

赤ちゃんの時、ミルクを飲ませてもらうモイ (近藤さん提供)
赤ちゃんの時、ミルクを飲ませてもらうモイ (近藤さん提供)

フィンランドで亡き猫を想う

   モイを迎える気持ちが“特別”だったのには、わけがある。近藤さんはその前年、マルオという最愛の猫を「心の準備もなく突然に」失っていたからだ。

「マルオは僕らが結婚と同時に飼いはじめた猫で、一人息子として溺愛していた子です。10歳まですくすく育ちました。その後、腎臓や心臓が少し悪くなって輸液や月1回の検診を続けていましたが、15歳の夏、いつものように検診のために預けた病院で、急に亡くなってしまったんです。朝まで家でのんびりくつろいでいたのに」

   夫妻は突然の別れに呆然とし、心の傷が癒えないまま半年を過ごしたが、ふと思い立って、フィンランドまでオーロラを見に行ったという。結婚以来、初めての長期旅行だった。

「どこかでマルオも見ているだろうなんて思いながら、北極圏で揺れる光を見ていました。その旅から帰ると、新しい家族を迎えたい気持ちが芽生え、巡り合ったのがモイなんです。マルオとは奇しくも誕生日が同じでした。モイというのはフィンランド語で『こんにちは』とか『やあ!』という意味ですが、本当に我が家にようこそという気持ちでした」

愛猫への思いを曲に

 近藤さんは、モイが遊ぶ姿を眺めながら、『子猫のロンド』という軽快なリズムの曲を作った。くるくる回って遊んで、このままたくましく成長していくのだろう――。そんなふうに未来を思い描いていたさなか、モイは病にかかってしまったのだった。

「ショックでした。知人には『あんな暗い顔の人は見たことない』と言われて(笑)。暗くもなりますね。でも、マルオにできなかった看病をモイで追体験するような不思議な感覚もあったんです」

 腸にあった影は、昨春には見つからなくなった。免疫療法は今も間隔をあけて続けている。このまま完全寛解することが夢だ。

明るくキュートな妹分ウニ
明るくキュートな妹分ウニ

「再発しやすいので、安心できないけど……」と近藤さんが目を伏せるように言った時、茶白の猫がにぎやかに居間に入ってきた。モイより1歳下の妹分ウニだ。

 おてんばな様子に、近藤さんの表情が一気に和らぐ。

「今までモイが生活の中心になっていたけど、ウニはどんな時もあっけらかんとしていて救われた」

 太陽のように明るいウニが、モイを照らすように近づいた。

(撮影:庄辛琪)

近藤さんのインスタグラム
モイの闘病ブログ
藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は16歳の黒猫イヌオと、2歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この特集について
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