繁殖業者の入院で取り残された甲斐犬 いまだ12匹が譲渡を待つ
経営者の男性が倒れた静岡県焼津市の繁殖業者のもとに、いまだ12匹の甲斐犬が取り残されている。ボランティアらが新たな飼い主を探す活動を続けているが、思うように譲渡が進んでいない。
今年6月、70代半ばの業者の男性が倒れて入院した。男性はひとりで甲斐犬24匹を飼育し、繁殖業を営んでいた。急な入院だったため、犬たちはケージに入れられたまま取り残されてしまった。このため7月以降、親族やボランティアらが世話をしながら新たな飼い主探しにあたってきたが、いまだ半数が残されているのだ。
ボランティアらが希望者に対応
ボランティアらは現地で随時、譲渡希望者の見学を受け入れている。9月下旬の週末にも、千葉県と茨城県から2組が訪れていた。
見学者がやってくると、普段から面倒を見ているボランティアの男性が、「この子は人が大好きで、いい家庭犬になると思う」「男の子で体が大きいけど、ものすごいびびりです」「この子はまだ人なれしていなくて、譲渡にはもう少し時間が必要」などと1匹ずつ丁寧に説明してまわる。敷地内では、ほかのボランティアらがケージから犬を出し、リードをつけて散歩してみせる。
千葉県から車で訪れた女性(57)は、繁殖業者の男性が倒れて多数の甲斐犬が劣悪な環境に置かれているという報道を見て、やってきた。「縁があれば1匹でも受け止めてあげたい。甲斐犬は主人一筋と聞きますが、1匹ずつしっかり見てみたい」という。
夏以降、ボランティアらによって、首輪をしたり散歩をしたりといった、「繁殖犬」から「家庭犬」になるためのトレーニングがほどこされてきた。はじめのうちは人が近づくと牙をむいたり、むやみにほえたてたりする犬もいたが、次第に人なれが進んだ。なかには警戒心が強いままの犬もいるが、ほとんどが問題なく散歩できるところまできているという。
だが、「中型の猟犬種で、飼い主以外にはなつかない」という甲斐犬のイメージが先行するためか、譲渡活動は思うように進まない。活動の中心となっているNPO法人「まち・人・くらし・しだはいワンニャンの会」の谷澤勉理事長は、「猟犬として飼うと確かに飼い主一筋になりますが、ペットとして飼えばほかの犬種と一緒。ボランティアが来ると、『散歩ができる』とうれしそうにする様子も見られます」と話す。
甲斐犬は「飼いやすかった」
実際、すでに譲渡されていった甲斐犬たちは、家庭犬としての適性を十分に見せているという。8月に2歳の雌犬を引き取り、「なな」と名付けて一緒に暮らし始めた静岡市内の男性(67)は、「私にとてもなついてくれて、積極的に甘えてくる」と喜ぶ。
迎えた当初はおびえてエサも食べなかったが、シャンプーをしたのを機に心を開いてくれたという。「からだのどこを触っても怒らず、おとなしくシャンプーさせてくれた。それからいきなり従順になった」と男性は振り返る。
散歩の時は常に歩調を合わせ、ほかの犬と出会っても友好的に接することができる。しつけたわけではないのに、散歩中にたびたび振り返って飼い主と目をあわせる「アイコンタクト」も、完璧にこなす。飼い主と犬とがアイコンタクトできるのは、信頼関係が築けている証しだ。男性は言う。
「これまで柴犬と紀州犬を飼ってきたが、甲斐犬は難しいという先入観があった。でもそれは、まったく間違った先入観だった。ななは、ほかの犬にも優しいし、本当に飼いやすい。私とななの様子を知ってもらえば、甲斐犬は、一般の人が飼うのに何ら問題がないことを理解してもらえると思う。ほかの犬たちも、なるべく早く良い環境にもらわれていくよう、願っています」
NPO法人「まち・人・くらし・しだはいワンニャンの会」はホームページなどを通じて新たな飼い主やボランティアなどの支援を募っており、谷澤理事長は「厳しい環境で長年生きてきた子たちに、平穏な余生を送らせてあげたい」と話している。
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