ノラ猫の繁殖現場で保護 “猫のための家”で快適に暮らす2匹
無責任に捨てられた猫をかわいそうに思ってお世話をする人と、猫の糞尿のニオイや発情時の鳴き声に迷惑する人とが対立する。猫をめぐって起きる地域トラブルの典型的な例だ。
(末尾に写真特集があります)
東京都練馬区内のマンションで穏やかに暮らす、6歳のシャムミックスのきょうだい猫「楽(らく)」くんと「更(さら)」ちゃんも、こうした現場の出身。長毛猫とシャム猫とが同時に捨てられ、不妊・去勢手術をせぬまま餌やりが続いた結果、20匹以上にまで繁殖していた。地元では人同士の激しい対立が生まれ、保健所には苦情が寄せられた。
対策に乗り出した地域猫ボランティア団体「NPO法人ねりまねこ」によって、現場の親猫たちは全匹避妊・去勢手術を施される。子猫たちは保護され、2匹のきょうだいは現在の飼い主、大江聡一郎さん・美恵子さん夫妻のもとへ。迎えるまでの経緯や、現在の暮らしを美恵子さんに聞いた。
〝猫目線〟考え家をリフォーム
大江さんのお宅を訪問すると、まず玄関には脱走防止用の柵、リビングの壁に猫用ステップ、天井近くにはキャットウォークと、室内はまさに猫仕様。猫たちが快適に暮らせるように全面リフォームしたという。
「私たちは共働きなので、こだわったのは、留守番中でも楽と更が安心・安全に、退屈せずに過ごせる環境づくりです。リフォーム会社の方といっしょに“猫目線”を考えて、上下運動ができる場所や、くつろげる場所をたくさん作りました」と美恵子さん。
大江さんが楽くんと更ちゃんを迎えることになったのは、2012年の冬のこと。先代猫のミーくんが、26歳の大往生を遂げて数ヶ月が経った頃だった。
「ミーが虹の橋へと旅立つまでは仕事をしながらの介護でした。ずっといっしょにいられずにごめんねという辛い気持ちもあったので、しばらくは猫との生活はいいかなと……。でも、もし次に迎えるならまた保護猫がいいよねと夫と話していた矢先に、たまたま覗いた里親募集サイトで、楽と更を見つけて。あまりのかわいさに心をわしづかみにされました」
共働きなので、子猫は譲渡してもらえないだろう。そう予感しながらも、ねりまねこが区内で活動しているボランティア団体ということもあり、ダメもとで応募した。
「応募フォームに鼻息荒くたっぷりと書いた意気込みは、今読み返したら恥ずかしいくらいですが(笑)、どうしてもこの子たちを迎えたいという想いを伝えたくて。ミーが26歳まで長生きしたこともアピールポイントになったようで、ミーが楽と更との縁を繋いでくれたのだと思っています」
「ずっと楽しく」「さらに幸せに」
楽くんと更ちゃんの名前は、譲渡が決まり、夫婦のもとに迎えられてから新たに付けたもの。
「保護されるまでは、人間から疎まれて、きょうだいで身を寄せて怯えながら生きてきたはず。『楽』にはこれからはずっと楽しく過ごせるようにという想いを、『更』には、さらにもっと幸せになるようにという想いを込めています」
保護までの間、寒い外で生活をしていたためか、迎えてから半年ほどは猫カゼの症状に悩まされた。目がふさがるほどの目やにや咳に、下痢。ほぼ毎週の病院通いが続く。
「子猫のかわいさを満喫できたのかわからないくらい慌しく日々が過ぎた気がします。その後は体調も安定して2匹とも元気。あの時の大変さなんて忘れてしまうくらいです」
それから平穏な日々を過ごし、半年前にはトイプードルの「陽(はる)」くんも迎える。犬も猫もストレスなく過ごせるように、大江さんは陽くんとともにドッグトレーナーのもとへ通い、しつけを覚えさせた。キャットウォークを増設するなど、猫たちがより自由に移動できるように環境面もアップデート。
初めは人を怖がって寄り添い結託していた猫たちも、快適な暮らしの中で心を開いていき、それぞれの個性を発揮するように。積極的に甘えてくる楽くんに対し、あくまでも自分のペースを尊重する更ちゃん。そんな2匹が与えてくれるものを、美恵子さんは笑顔でこう話してくれた。
「仕事で疲れた心と体をリセットし、また明日から頑張るエネルギーをチャージしてくれる存在です。『ずっと楽しく』『さらに幸せに』を願って付けた2匹の名ですが、私たちの方が、いっしょに過ごす楽しい時間と幸せな気持ちを、楽と更から与えてもらっています」
NPO法人ねりまねこ
練馬区と協働の地域猫活動に加え、登録ボランティアのアドバイザーとして後進の育成、ネットや講演活動による地域猫活動の普及・啓発、保護・譲渡活動などを行っている。
公式HP:https://nerimaneko.jimdo.com
ブログ:『ねりまねこ・地域猫』https://ameblo.jp/nerimaneko/
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