中国で拾った猫は、貴婦人のような美人 飼い主は「しもべ」に

 片側だけが黒い白黒模様の顔で、“高貴で美しい”“陰陽の図みたい”と、インスタグラムで評判の猫がいる。名前は「いち」、7歳のメス猫。生まれは、中国・上海だという。その尊顔を拝したく、ご自宅にお邪魔した。

(末尾に写真特集があります)

 窓から光が射す、東京都心のワンルームマンション。飼い主のAさんが見つめる部屋の奥に、白黒の猫がいた。

 ソファ型の爪とぎに、優雅に座っている。確かに高貴な雰囲気で、翡翠のようなグリーンの目も魅力的だ。「いち」はちらりとこちらを見て、そのまま伸びをした。

「いち」は、幼なじみのキジ猫「ちま」(メス、7歳)とともにここで暮らしている。

「今日はシャーしないのね?」と言いながら、Aさんが2匹の生い立ちを説明してくれた。

立ち姿も美しい「いち」ちゃん
立ち姿も美しい「いち」ちゃん

やぶで相次ぎ拾った子猫

「2匹とも中国の上海生まれ。7年前に仕事で駐在していた時、マンション裏のやぶで鳴いていました。『ちま』を拾ったのが端午の節句の5月、その1か月後に、『いち』と出会いました」

「ちま」は母猫の育児放棄なのか1匹ぽつんと落ちていて、「いち」は兄弟と思われるオス猫と箱に詰めて捨てられていたのだという。箱の中にいた2匹は、譲渡先を見つけるつもりで1号、2号と名付けた。結局1号の「いち」が残り、2号を人に譲った。

「実家で何匹か猫を飼っていましたが、白黒猫には縁がなく、くっきりした模様と目に惹かれました。でも乳飲み子を捨てるなんて……。まさか赴任先で立て続けに猫を拾うと思わなかったけど、必死でミルクを飲ませて育てました」

「いち」はルックスだけでなく、性格も個性的だったようだ。

上海にいた幼い頃 
上海にいた幼い頃 

「ミルクを飲むと、“はい終わり”という感じで、すっと寝床にいく“クールな赤ちゃん”。あまり淡々としているので、気持ちが通じない気がして心配でした。でも今ではすっかり甘ったれ。めちゃくちゃ末っ子気質のジコチューに育ちました(笑)。私は彼女の虜(とりこ)です。現地の言葉では『猫奴』(マオヌー)というんですけどね」

 上海では“家を買わないと結婚できない”と言われ、男性は住宅ローンの奴隷になるから「房奴」(ファンヌー)。一方、“猫を飼うと人がしもべになる”ことから、猫奴と呼ぶのだそうだ。

 もともと猫好きだったAさんは、上海の野良猫事情にも関心を持った。行政による殺処分は日本のように行われることはあまりないが、「いち」のように放置される猫がとても多いと知った。そこで、現地の外国人を中心としたボランティアグループに参加して野良猫の保護を手伝うようになった。譲渡会も月に2度くらい行った。

「保護した子猫を預かるため、自宅に連れてくると、『ちま』はあまり気にしなかったんですが、『いち』は“ちょっとあなたたち何?”というように唸って怒りました。現地で借りたマンションは部屋数が多かったので、『いち』に気遣いながら、できる範囲でレスキューをしました」

幼馴染みの「ちま」なぜか最近「いち」にシャーされる
幼馴染みの「ちま」なぜか最近「いち」にシャーされる

家に苦心、運動不足もたたり

「ちま」と「いち」の2匹を連れて帰国したのは5年前。それからAさんは何度か引っ越しをした。最初は都心から離れた広い部屋を借りたが、会社から近い場所に移ったのだという。

「日本は災害が多いので、何かあっても職場から徒歩1時間で帰れる所にしたんです。日本の住宅事情は厳しく、近さを優先したら狭くなってしまった。猫を飼う人が増えながら、住める部屋は多くない。上海ではもっと自由で、退出時に修繕すればOKなのに」

 現在の部屋は約30平方メートル。そこに爪とぎ2台、キャットタワー、猫が飛び乗れる棚に、ソファとテーブル。無駄なくすっきり片づけられ、実際より広く感じる。

「この広さでも、上下運動を工夫すれば十分猫も暮らせる、はずでした。でも予想以上に『いち』が太ってしまって。今5.6キロで、『ちま』とは1.3キロ以上の差がある。原因はおやつかな」

 留守の時はシッターや知人に猫の面倒を頼むそうだが、あまりの可愛さ、遊びたさから皆おやつをどんどん与えてしまったらしい。Aさんも「いち」が欲しがると「ノー」と言えなかった。実はこの肥満対策は、大きな課題なのだという。

「もともと『いち』は運動神経が悪いうえ、太って動きが悪くなり、去年、棚から棚に移る時にお腹をどんっとぶつけて、膀胱が傷ついてしまったようで」

 お腹を打った後に血尿が出て、慌てて動物病院に連れて行くと、結石も見つかった。その治療をしながら、「もう少しやせましょう」と獣医さんにいわれたそうだ。

 「いち」は、猫のオモチャが好きで蹴りぐるみを激しく蹴ったり、羽音のするオモチャを追って数センチは飛び跳ねるが、すぐに飽きる。

「食事の管理もしているけど、もう少しだけ運動をさせたくて。メゾネットのような階段付きの部屋なら、私の後をついて回りながら自然に動けるかなと思って」

貴重なセクシーショット
貴重なセクシーショット

猫の写真で仲間とつながった

 今、家探しとともにAさんが力を入れているのが、「いち」の撮影だ。2年前にインスタグラムを始め、一眼レフを買ってからハマった。「ちま」はカメラに興味を持って向かってきてしまうが、「いち」はレンズを向けるたび“ポーズ”をとる。元来の美しさとポーズや構図の良さで、フォロワー数もどんどん増え、今では約7千人いる。

 昨年はsippo主催の写真展「みんなイヌ、みんなネコ」にも出展した。

「カメラを買って半年後に写した写真。応募したら採用されて嬉しかったですね。インスタ仲間もみんな写真を見にきてくれて、その場で盛り上がりました。仲間にも写真を出展した人が結構いて、写真展を通して人の繋がりも深まりましたよ」

 帰り際、ちょっと恥ずかしそうにAさんが言った。

7年一緒にいても、いちの美しさに今もドキッとするんですよ。早朝に鎖骨や顔をかじられて起こされても、何されても、ずっとかしづきます。猫と人の共生がもっと楽に楽しくなるような願いを持って、猫との日々を発信していきたいな」

◆8月16日から新宿で「sippo写真展」
「みんなイヌ、みんなネコ」と題して、sippoが2016年から開催している写真展です。保健所などに収容された経験のある元保護犬や元保護猫の写真を、飼い主のメッセージとともに100点以上展示します。飼い主のいない犬や猫を引き取って飼うことを「普通の選択肢」にしたいと願って始めた企画です。
 3年目の今年は、写真展以外の企画も含めて、ペットイベント「みんなイヌ、みんなネコ」として、内容を充実させて開催します。18、19日の計300匹が集まる保護猫譲渡会、「白黒さんいらっしゃい」のコーナーなど盛りだくさんの内容です。
・日時:8月16日~20日、10時~20時(最終日は18時まで)
・会場:京王百貨店・新宿店
・入場:無料
・詳しくはこちら



藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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