自販機の陰に住みついた老猫 放っておけず家に迎え入れた
古いアパートが取り壊された後、近くにある自動販売機の陰に1匹の猫が住みついた。人によく馴れ、かわいがられていたが、年老いた猫を誰も引き取ろうとはしなかった……。ある日、近所に住む夫婦が一緒に暮らすことを決意した。
中高年の夫妻が、その猫に出会ったのは、一昨年の夏のことだった。
夫妻の趣味はランニング。走るのは仕事終わりの夜だ。東京都心の自宅マンションを出て、坂を下った所をスタート地点にしていた。ある夜、その坂の下にある自動販売機の灯りの中に、1匹の猫がいることに気がついた。
「近所の人に聞くと、急にどこかからやって来て居着いたようでした」
妻は、動物愛護センターに確認したが、迷猫の届け出はなかった。避妊処置とワクチン接種をしようと、動物病院に連れていくと、すでに避妊がされていた。人に馴れているので、もともと飼われていた猫かもしれない、と思った。
「自販機の近くに、古いアパートあって以前はたくさんのお年寄りが住んでいました。でもそこが取り壊されたんです。引っ越し先に連れていけなかったのかわかりませんが、誰かとともに、長く生きてきたのかもしれません」
寒さの中にぽつんと
夫妻は “自販機の猫”をよく目にした。小学生に抱かれたり、町の人に可愛がられたりしていた。だが、水をがぶがぶと飲み、自販機の陰では雨をしのげないのか、体が濡れていることもあった。路上で暮らす猫が、日に日に気になっていった。
それでも、すぐに家に入れてあげることはできなかった。その時、家には2匹の若い保護猫がいたからだ。夫婦が初めて迎えた猫たちだった。
「猫の初心者の私たちのもとで、保護猫たちがようやく家に慣れて生活のリズムができあがったところでした。共働きで2人とも仕事に出かけるし、年をとった猫をうまく世話できるだろうかと考えあぐねました」
老猫は誰が引き取るでもなく、町の猫として、1カ月、2カ月と自販機の周りで暮らし続けていた。吹く風がだんだんと冷たくなってきた。
「寒い中でかわいそう……。いやがらせをされそうになったこともあったし、うちに連れてこようか」
「雨も降ってきたし、このままじゃ死んじゃう。迎えてあげよう」
そう決心したのは、初めて見かけてから3カ月後、11月のことだった。
その日をよく覚えている、と夫がいう。
「ちょうどアメリカの大統領選でトランプが勝った日で、テレビは大騒ぎ。ニャロミは家で大騒ぎでした」
新しい家になじむ
家に入れたとたん、ニャロミは緊張したように固まり、夜中に遠吠えのように鳴いた。それでも、すぐに馴染んで、排泄もトイレで問題なくしたという。
動物病院に連れていくと、推定14~15歳と言われた。聴力は失っているようだった。感染症はないが、慢性的に腎臓が悪く、最初の診察で腎臓ケアの指導を受けた。フードに気を付けて、週1回の点滴を始めたという。
ニャロミは保護当時から痩せていた。今もなかなか体重が増えないが、迎えた時の体重3.2キロは維持している。先住の若猫たちとの関係はつかずはなれず、ほどよい距離感だという。
「初めは部屋を分けましたが、2週間もすると、ニャロミは皆がいるリビングに探検をしにきて、そのまま過ごすようになりました。3匹は同じ部屋にいてもそれぞれが好きな場所で過ごし、うまく共存していると思います」
避けられない衰え
そんなニャロミも高齢のため、少しずつ衰えもみえる。
夜、マンションの居間に「ミャーオ、ミャーオー」と鳴き声が響く。テーブルの下、猫用ベッドに横たわったニャロミが鳴いているのだ。
「どうしたのニャロミ?」。夫妻が体を撫でてあげると、安心したのか、鳴き声が止む。
寝床のマットの周囲には、ペット用シーツが何枚も敷き詰められている。
「最近おしっこの失敗が少し増えました。目も見えなくなってきているし、前は上がれたベッドに上がれなくなりました。ほとんど寝てばかりですが、食欲はあります。仕事から帰ると、気配でふっと起きて“ごはーん”と呼びます。前より声が大きくなったかな」
時折、寝室に布団を敷いて寝かせると、声の大きさに驚くという。逆にあまり静かに眠っているときは心配になり、「生きてるわね?」と顔を近づけて生存確認をすることもあるそうだ。
「ニャロミには安心して、楽しく暮らしてほしいわね」
「気持ちよくなるべく長生きしほしいね」
夫婦に見守られ、ニャロミおばあちゃんは、“はいよ”とでも言うように、ゆっくり立ち上がった。

sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。