野良猫を見送った後に迎えた2匹の子猫 室内飼いを選択

 猫との付き合いが長い家族が、今年2月、子猫2匹を新たに家に迎えた。飼い主の女性は、猫の幸せや人との関わりを改めて考えて、それまでの“出入り自由”な飼い方をやめ、完全室内飼いにしたという。背景には、救えなかった野良猫の死があった。

(末尾に写真特集があります)

 埼玉県川越市。2階建ての住宅の前には畑が広がり、庭先にも色とりどりの花が植えられている。車の通りが少ない静かな環境だ。

「家で猫がお待ちかねです」

 飼い主の柴田久仁子さん(67)が指さす先に、白っぽい猫が1匹。網戸越しに、じっとこちらを見ていた。

きょうだいではないが、小さな時から一緒で仲良し(しろ、ひめ)
きょうだいではないが、小さな時から一緒で仲良し(しろ、ひめ)

「あの子は『しろ』。もう1匹、『ひめ』という子がいます」

 久仁子さんは、60代の夫と20代の息子の3人暮らし。2匹とは今年2月、保護猫譲渡会で出会い、家に迎えたという。「しろ」(オス、約11か月)は人懐こく、ストレートに甘える猫。「ひめ」(メス、約11か月)は憶病でツンデレのお嬢様タイプだという。

「『ひめ』はマンチカンの血が入っているのか、足が短いんです。『しろ』は昔飼っていたキジ猫に少し似ている。夫は孫をあやすように、『おーよしよし』なんて言ってますよ(笑)」

家に寄って来た野良猫

 家には数年前まで、犬のララや、猫のルル、リリが暮らしていた。

「ララとリリは19歳まで、ルルは18歳まで生きました。皆長生きでしたね。でも猫2匹を飼い始めた頃(90年代半ば)は、“出入り自由”な飼い方が多く、うちも外に出していました」

 2匹の猫は幸い大きな病にかかったり、事故にあったりすることはなかった。老衰で次第に弱り、自宅で“大往生”したという。

 看護学校や介護関係の講師をしている久仁子さんは、長年老いや死の問題に向きあってきた経験から、「動物の終末期も、人と同じで、孤独にさせないことが大事」と話す。

「人も動物もひとりで生まれて、ひとりで死んでいく。せめて最期、寂しくないように寄り添いたいといつも思うんですよね。でも今年はじめ、少し後悔することがあったんです……」

ベッド下からこちらを覗くしろとひめ
ベッド下からこちらを覗くしろとひめ

 2匹の家猫の死後、久仁子さんの家には、野良猫が遊びに来るようになっていた。ごはんを食べ、夜になると2階まであがるようになったが、しばらくすると鳴いて外に出たがった。久仁子さんは、「野良だから閉じ込めない方がいいのか」と思い、正式な飼い猫にすることはなかったという。その野良猫が、ある時を境に、姿を見せなくなった。

「どうしたのかなと思っていたら、昨年末、痩せてフラフラになって、よだれをたらして現われました。動物病院に連れて行ったのですが、感染症で、もう手のうちようがなくて……。家に入れて世話をしました」

 ケアをしていて、久仁子さんはさらにショックを受けた。野良時代が長く、トイレはうまくできないだろうと思い込んでいたが、キッチンに大きなケージを置いてトイレを用意すると、粗相することなく、きちっと排泄ができた。

「可哀そうなことをしてしまったな、と思いました。もっと早く、何かしてあげられただろうに、という思いにかられたんです。その猫は私が仕事から戻るのを待って息を引き取ったのですが……心残りで」

足が短くて可愛いひめ
足が短くて可愛いひめ

完全に家の中で

 譲渡会に出かけたのは、その野良猫を荼毘にふした2週間後だった。そこで「しろ」と「ひめ」に出会ったのだ。

「ケージで『ひめ』は寝ていて、その横で『しろ』がちょこんと座っていて、私と目がぱっと合いました。最初は『しろ』だけ迎えようと思ったのですが、預かりボランティアの女の子が“2匹はきょうだいではないけど仲良し。オスがメスの面倒をよく見てきたんですよ”と話すのを聞き、その場で2匹の申し込みをしたんです」

 保護団体と交わした契約は、“完全室内飼い”。でも実は、トライアルの時、飼い方をめぐって家族で意見が少し分かれたという。

「夫と息子は、猫は外で風を感じ、大地を走るのが自然じゃないかと言いました」

 確かに屋外は自由だ。だが、猫同士の喧嘩や感染症などの恐れがあり、事故や道に迷う可能性もある。室内ならそんなリスクを減らすことができる。室内飼いの猫と、外を行き来する猫では、平均寿命に数年の差があるともいう。夫や息子も納得して、今は家の中での猫の生活を守るため協力し、脱走防止も徹底している。

階段で久仁子さんと遊ぶしろ
階段で久仁子さんと遊ぶしろ

「夜になると、2匹で追いかけ合って大運動会。家の中でも運動量は十分に足りていると思いますよ。若くて遊びたい盛り、つきあうのが大変ですけどね(笑)」

 この日も2匹は、2階に上ったり1階に下りたり、動き回っていた。とくに階段がお気に入りのようだ。「しろ」はよく久仁子さんにおんぶをしたり、おもちゃを持ってきて “一緒に遊ぼう”とせがんだりするのだという。

「猫と出会うと、昔可愛がった子たちの生まれ変わりかな、と思うこともあるんですよ。この子たちにも、長生きしてもらいたいです。私も元気でがんばらなくちゃ!」

(撮影 庄辛琪)

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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