災害救助犬と出動 においの動きが見える瞬間、鳥肌が立つ

 こんにちは。大西純子です。

 「犬の世界を旅しよう」、なんて壮大なタイトルをつけてしまいましたが、私が犬を通じて知り得た「犬の世界」や、犬旅(ここのところ犬関係以外で旅をすることが無い!)で知りえた情報をお伝えしたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。

(末尾に写真特集があります)

災害現場へ向かうために装備を装着する大西純子さんと災害救助犬ハルク
災害現場へ向かうために装備を装着する大西純子さんと災害救助犬ハルク

 では、さっそく犬旅ですが、私の犬旅の中で決して外すことができないのが、災害現場への出動です。ピースウィンズレスキューでは、2014年8月20日の広島土砂災害以降、国内外を問わず多くの災害現場に出動してきました。私も救助犬ハルク(6歳♂ ゴールデンレトリバー)のハンドラーとして現場に出ております。災害は起こらないに越したことはありません。しかし、ここのところ毎年、しかも年に数回災害が起こり、出動しています。

 4月11日午前3時40分ごろ、大分県中津市耶馬渓町で民家の裏山が幅100メールに渡り崩落しました。

 そのニュースを知ったのは、朝5時30分ごろ。いつものようにハルクをはじめ犬たちの散歩をしながら、スマートフォンで情報を取集し、出動するべきか、救助犬の需要があるか、2次災害の危険があるのでは……など考えながら歩いていました。

 テレビの中継で現場の全容がわかり、レスキュー隊の招集がかかりました。中津市からの救助犬要請をうけ、午前11時にヘリコプターにて大分県を目指し、離陸しました。空から現場を見ると、まるで山肌を巨大なショベルカーで削り取り、川筋にある民家へ落としたような、そんな様子でした。「におい、取れるかな…。」隣に座るハルクとため息交じりに言葉を交わしました。

現場へ向かうヘリコプターの中で、ハルクと
現場へ向かうヘリコプターの中で、ハルクと

 救助犬にとって土砂災害はとても難しい現場です。地震などの場合、倒壊した建物にはどこかしらに隙間ができ、その隙間から中に閉じ込められてしまった人のにおいを嗅ぎ取ることができます。でも土砂災害の場合、土がその隙間を埋め尽くしてしまい、においが外へ漏れ出ることが難しくなります。ましてや雨などで湿っている場合は、完全に密閉されてしまうこともあります。しかもこの耶馬渓町の現場は、大きな大量の岩が民家を押しつぶして建物らしいものが見あたらず、岩に土が覆いかぶさっている状態でした。

 しかし、生存の可能性を求め、ハルクを現場に投入しました。においが漏れ出ているところがないか、ハルクも探していますが身体をブルブル振りゆすったりしていてネガティブな反応しかありません。においが取れていないのです。消防のかたにお願いして、ワンボックスカー位もある岩を動かしてもらい、ある程度の土を重機で掘っていただきました。重機で掘る→救助犬を入れる→消防のみなさんが手掘り作業をする、そしてまた重機が入る……という作業を繰り返し行いながら、あっという間に夜になり、捜索作業は24時まで続きました。

土砂崩れの現場で。巨大な岩が民家を押しつぶしていた。
土砂崩れの現場で。巨大な岩が民家を押しつぶしていた。

救助犬の反応で行方不明者を発見!

 翌朝、日の出とともに作業再開。救助犬投入。ハルクが屋根らしきものが見えている隙間に頭を突っ込みました。中で激しくクンクンと嗅いでいる。頭を出しそしてまたすぐに頭を突っ込み「ワンワンワン・・・。」とほえ始めました。反応を示したのです。

 消防のかたが、すぐさまその場所から手掘りで作業を始めました。中からは茅葺屋根の乾いた藁がたくさんでてきました。掘り進んでいると周りが崩れそうになり、また重機をいれて周りの土を取って手掘り作業を進める。ハルクがほえてから4時間が経過し、ようやく行方不明になっていた人の姿が見えました。

 ピースウィンズレスキューの医師が確認をしましたが、残念ながら亡くなっていらっしゃいました。無理もありません。大きな岩が家屋の真上に落ち、2階建てぐらいの高さのある家が、わずか30㎝ぐらいにまで潰されていました。人命救助には至りませんでしたが、警察や消防・自衛隊のみなさんが掘り進む「方向性」を示すことに役立てたのではないかと思います。

ピースウィンズレスキューから災害救助犬として、ハルクのほかに夢之丞とルークも出動。
ピースウィンズレスキューから災害救助犬として、ハルクのほかに夢之丞とルークも出動。

犬は嗅覚の世界で生きている

 私は、救助犬ハルクと日々訓練をしている中で、私たち人には感じることができないにおいの世界を見せてもらっています。ハルクの鼻の動きで見えないにおいが可視化されているのです。それはまるで、においの元(人が隠れているところから漏れ出ているにおい)が煙のように立ち昇り、風にあおられ、どこに落ちているのか、気温の変化でどのように動いているのか……見えるようなのです。これを感じた時、もう鳥肌が立ちました。

 犬という動物は、視覚の中で生きているのではなく、嗅覚の世界で生きている。においについては、決して隠しごとができない()。そんな相棒を私は心から尊敬し信頼し、彼らのこの嗅覚という超能力を活かしていく犬旅を、これからも続けたいと思います。

大西純子
NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの犬の保護事業「ピースワンコ・ジャパン・プロジェクト」リーダー。広島県神石高原町の本部シェルターを拠点に、全国6か所の譲渡センターで保護活動を行う。災害救助犬ハンドラーとして国内外の災害現場に出動もしている。

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この連載について
犬の世界を旅しよう
犬の保護事業「ピースワンコ・ジャパン・プロジェクト」リーダーの大西純子さんが、犬を通じて知り得た発見や驚きを紹介します。
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