初めて暮らした猫の旅立ちから15年 「クロ」が残したもの
春が来て、子猫だった「はっぴー」も生後10か月になった。窓辺でくつろいだり、どこからか漂ってくる花の香りをかいだり。そんな姿を見ているうちに、私が初めて飼った黒猫「クロ」のことを思い出した。「クロ」のおかげで、猫を愛するようになり、「はっぴー」とも出会えたのだ。
「クロ」は、私がはじめて飼った猫だ。
親猫からはぐれたところをボランティアさんに保護され、実家にやって来た。500グラムに満たない姿は、まるで毛糸玉のようだった。当時、実家にはほかに2匹の子猫がいたが、「クロ」は体がいちばん小さく、隠れてばかりだった。
ところが、私が実家に寄ると、姿を現す。帰る時は先回りして玄関で待つようになり、“帰らないで”というように毎回、肩に飛び乗るようになった。下しても、下しても、乗ってきた。グルグル喉を鳴らしながら……。
「クロちゃん、私のとこに連れていっていい?」
家族と話し合い、肩乗り猫「クロ」を姉から譲り受けて、私のマンションで同居を始めた。猫と暮らすのは初めてだった。子どもの頃に飼い犬に噛まれ、文鳥を隣の猫にさらわれ、馬に乗れば振り落とされて……。動物には縁がないと思い込み、むしろ背を向けて生きてきた。
そんな自分を「クロ」はなぜか選んでくれた。「クロ」との暮らしは新鮮で、可愛くて、面白くて。当時のBFに「一日見ている気? 俺と猫どっちが大事」と聞かれ、「猫!」と即答して呆れられたものだ。
「クロ」はもともと胃腸が弱かったが、4歳の頃に、キジ猫「ルナ」を保護すると、お世話をして良いお姉さんぶりを発揮した。ところが、しばらくすると体調が悪くなり、通院、入院を繰り返すようになった。治療は難しく、闘病は長びいた。
その「クロ」が9歳11か月で亡くなる寸前、夢に出てきたことがある。
すでに他界していた祖母の部屋にちょこんと座り、西日を浴びて機械のような高い声でこう言ったのだ。
「イツカマタ、アイマショウ」
桜の季節に「クロ」を看取り、 同じような黒猫を見かけるたびに泣いて周囲に心配されたものだ。その8か月後、佐良直美さんからご縁を頂き、迷子の黒猫「イヌオ」を譲り受けた。
最初はつい比べてしまい、違う、違う、と思ったりもしたが、いつしか「イヌオ」のすべてを愛するようになった。そんな「イヌオ」も今年の秋には15歳を迎える。
季節は巡り巡っているのだ。そして絆も……。
身体が大きくなった「はっぴー」を抱いて、話しかける。
「クロちゃんはいつも肩に乗ったんだよ。君は指しゃぶりだけどね」
昔好きだった歌に、〈忘れることを作ってくれた神様に、感謝をしなければ〉という一節があった。私が「クロ」を忘れることは、この先もないだろう。でも、つらい涙の記憶は、消えている。
私を受け入れ、猫好きにさせてくれた「クロ」に、感謝しなければ。
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