旅立った犬や猫 たくさんの別れを乗り越えて生きる
長年、犬や猫と暮らして多くの命を看取ってきた桐島かれんさん。大切なペットとのお別れには、欠かせない儀式があるそうです。
生と死のサイクルの中で育つ子ども
私のようにペットを長く飼い続けていると、それだけ死と向き合う回数も多くなります。ハムスターが死ぬことも犬が死ぬことも、悲しみは同じです。家族同様のペットたちとのお別れは辛いものですが、乗り越えていくしかありません。
子どもたちの中でも、動物の死を前にして1日じゅう泣き崩れている子もいます。子どもの場合は、ペットの死が、初めての「死」と向き合う経験となることもあります。「ずっと続くように見える日常が、実は、いつ終わってもおかしくないんだ」という、生きていくうえでとても重要な認識をペットの死を通して育む機会となります。弱いものを気遣う気持ちや責任感、命の大切さを教えてくれるペットの存在って、子供の情操教育につながりますよね。
私も犬、猫、ハムスター、うさぎ、モルモット、金魚などたくさんの動物を看取ってきました。「死」に慣れるという言い方は変かもしれませんが、「死」をあたり前のこととして受け入れる「覚悟」と「強さ」が身につきました。4人の子供を産み育てている間にも、うさぎが4匹の赤ちゃんを出産したり、けがをしたスズメを保護したり、病気をしたペットの手術や看病、年のため目や耳が悪くなったり、認知症の症状が出てきたりする長老のペットたちの世話などなど、いろいろありました。人間と動物の「生と死のサイクル」の濃密な渦の中で生活をしている感じです。
別れの「儀式」に木を植える わが家のスタイル
今、私は介護中で、死期が近い犬マティスと毎晩添い寝をしていますが、子どもたちは寝る前に必ずマティスをなでに来てくれます。朝起きたら亡くなっているかもしれないマティスに、「明日は日なたぼっこしようね」、なんて一言をかけるんです。死にゆくマティスに接している子どもたちもあわててはいません。私たちには、私たちなりの死の迎え方、お葬式のやり方があるのです。
ペット葬儀の業者には頼みませんし、最期はなるべく病院ではなく自宅で迎えさせます。自分たちでお別れの儀式をし、埋葬をします。永眠したペットは、子どもたちが赤ちゃんのときに使っていたクーファン(カゴベッド)や箱の中に寝かし、そこに私が買ってきた大量のお花で飾り付けをします。フードやおもちゃ、家族と一緒に撮った写真などをいっぱい散りばめ、天国に行っても寂しくないようするんですよ。
お葬式にはみんなが集まって献花をするの。写真家の夫の歴代のアシスタントもみんな来てくれるんです。彼らも、我が家の動物たちとずっと一緒にいたから。
そのあと、「山の家」と呼んでいる八ヶ岳の家の庭に埋葬して、そこに木を植えます。山の家へ行くたび、亡くなったペットたちの慰霊の木に、お線香とお花をあげてお参りするのがみんなの決まりごとです。亡きがらは土に戻り、その栄養で育っていく木も、ひとつのサイクルですよね。
その場所には歴代の犬や猫、拾ったスズメやいろんな生き物たちが埋まっていて、しるしになるように可愛い石像も建てているんですが、身近にあるおかげで、みんなを思い出すことができるんです。山の家に行くたびにやっぱり思い出す。みんな自然が大好きでした。犬たちは、それはもう大喜びで庭を駆けずり回って。今でもきっとそうしているんじゃないかしら。
動物たちから教えられた、家族のあり方
ペットロス症候群という言葉があるように、子どものように可愛がって育ててきた犬や猫の死で、大きな喪失感に襲われることもあるでしょう。「死ぬのはあたりまえ」のことですが、犬や猫を家族として迎え入れる時にはそんなことまで考えが及びませんよね。わが家でペットたちのお葬式を行うのは、儀式をすることによって、悲しみに区切りをつけられるからかもしれません。
“子ども”って動物が大好きですが、なかなか世話はしないものです。ペットショップで小さくて可愛い子犬なんか見ると「絶対に自分が世話をする」なんて言いますが、絶対しませんからね(笑)。
わが家の子どもたちは、旅立った動物たちをいっぱい見てきて、死ぬととても悲しいことがわかっていますし、世話をする私の大変さも見て育っています。ですから、大人になっても安易にはペットを飼わないと思います。私もペットから学んだことは多いです。みんな少しずつ老いて、体力も落ち、徘徊するようになって……。「自分もいつかこうなるんだろうな」「夫もこうなるんだろうな」って思いますよ、世話をしながら。
そこにいるだけで私を癒やしてくれるペットたちは、無条件の愛、責任を持って最期まで世話をすること、命の尊さ、生と死のサイクルなど、今でもたくさんのことを与え続けてくれています。
◆HOUSE OF LOTUS
http://houseoflotus.jp/
※マティスちゃんはこのインタビューの数日後に旅立ちました。どうぞ安らかに。ご冥福をお祈りいたします。
取材・文/小見山友子
写真/浜田啓子
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