米国の山火事から逃れたペット 救ったのは地域に根ざす保護施設
昨年10月、カリフォルニア北部で大規模な山火事が発生し、ワインの産地として知られるナパ郡やソノマ郡にも甚大な被害がもたらされたことは記憶に新しい。カリフォルニア史上最悪となったこの火事では、ナパとソノマだけで5,500以上の家や建物が焼け、多くの人と動物が家を失った。
私はソノマ郡へは取材でたびたび訪れ、ここを舞台にした本も何冊か書いているが、行くたびに滞在させてもらっていた友人の家は全焼してしまった。彼女はパジャマのまま二頭の犬と一匹の猫を連れ、命からがら迫り来る火の手から逃げたという。
友人は幸いにも自分の動物たちといっしょに避難することができたが、それがかなわなかった人たちもおおぜいいた。ソノマ郡の動物保護施設「ソノマ・ヒューメイン・ソサエティ」(以下SHS)には、火事の直後から、飼い主とはなればなれになり、火傷を負うなどした犬や猫たちが次々と運び込まれたそうだ。SHSはけがをした動物たちの治療を無償で提供するととともに、全国から届いた救援物資の配布をおこなうなど救援活動の中核を担った。
1931年に設立されたSHSには80年以上の歴史がある。火事直後から多数のボランティアを動員し、多くの動物たちを救うことができたのは、地域に根ざした保護施設として、動物たちの命を尊ぶ教育をこれまで地道に続けてきたおかげではないだろうか。
◆子どものころから保護犬、保護猫を迎える文化にふれる
たとえば、小学生向けのアニマル・アドベンチャー&教育キャンプは、夏休みと冬休みに5日連続で、動物たちへの思いやりや慈しみを育むことを目的におこなわれる。子どもたちはさまざまな動物たちの生態や行動について学び、シェルターの日常の作業風景や、シェルターに併設されている動物病院での医療の様子を見学する。実際に犬、猫、うさぎなどの動物の世話をしたりもする。
中学生から高校生を対象としたティーン・キャリア・キャンプでは、シェルターや動物病院の現場を見るのはもちろんのこと、シェルターに収容されている犬の訓練を手伝ったり、どうすれば人と動物がよりよく共生できるのかを動物の保護にたずさわる専門家たちと話し合ったりするカリキュラムが組まれている。これは将来動物にかかわる仕事がしたいと思っている10代の若者たちへのキャリアガイダンスでもある。
このような教育をとおして、子どものうちから保護犬や保護猫を伴侶動物として迎えるのが当たり前の文化を醸成していることに感心させられる。
また、保護犬や保護猫と暮らしたい人を手厚くサポートする体制が整っていることも重要だ。たとえば、SHSが提供している犬のトレーニングクラスはとても多彩で、子犬、成犬、大型犬、小型犬、問題行動別、そして、62歳以上の飼い主のためのクラスまである。猫の問題行動についての相談を受けるホットラインもあるし、蔵書が充実し、親子で楽しめる図書室もある。
友人とともに火事を生き延びた二頭の犬と一匹の猫は、皆SHSで保護されていた動物たちである。彼女はソノマ郡で長年暮らす一市民だが、伴侶動物はシェルターから引き取ると決めていた。そうすることが当たり前の文化のなかで育ってきたからだという。
やはり教育の力は大きい。
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。