多頭飼育崩壊から救出された猫 今はワイン酒場の看板猫に
地下鉄有楽町線の新富町駅から徒歩1分のところにある「Oui Oui(ウイウイ)」(東京都中央区)。30代の夫婦がふたりで切り盛りする、フランスワインを中心に扱うおしゃれなワイン酒場だ。お弁当を販売するランチタイムに店頭に立っていたのは、妻の山田敦子さん。そして、リボン付きのハーネスを装着した1匹のオス猫だった。
(末尾に写真特集があります)
キッシュや洋風おでんなどのお弁当を求めて次々と列をなすお客さんの視線は、そろって入り口の扉のあたりにいる猫へ注がれる。招き猫さながら椅子にちょこんと座る、その猫の名は「スイくん」。気候のおだやかな日限定で、こうして“お手伝い”をしているという。
「スイは人懐っこくて、とにかく動じないんです。会社員の男性も、『ニャンちゃーん!』と声をかけて、じゃらしおもちゃで遊んでくださったり。お昼休みのアニマルセラピーになっているんじゃないかと思います」と、敦子さんは笑顔で話す。
◆やせ細り、「明日には生きていない」ほど衰弱
そんなアイドル猫、スイくん。約2年前に夫婦のもとにやってきたときは、やせ細っていたという。じつは、東京都内で起きた多頭飼育崩壊(ペットの過剰繁殖によって生活が崩壊してしまうこと)の現場にいた約50匹中の1匹。異臭漂う室内から、「NPO法人ねりまねこ」が真っ先に救出した猫だった。ねりまねこの亀山嘉代さんは、「最初は視察のつもりでしたが、目は炎症でふさがり、衰弱から食べることもできない様子に、『明日には生きていない』と思って連れ帰りました」と語る。
夫婦とスイくんとの出会いはその夏。悪性リンパ腫が原因で、16才ぐらいで亡くなったラブラドールレトリーバーのウイちゃんの命日に、次の家族を迎え入れようと里親募集サイトを眺めていて見つけたのが、亀山さんが出したスイくんの「譲渡情報」だった。亀山さん宅を訪れて、対面することになった。
当時をふりかえって、敦子さんはこう語る。
「まだ目と鼻はぐちゅぐちゅで、瞬膜(目頭側にある白い膜)は、内側に毛がべったりくっついて露出していて。あとでわかったことですが歯の生え方にも異常があり、目と歯はともに手術を受けました。多頭飼育崩壊現場にいた猫だからといって迎えることに躊躇はなく、かといって『かわいそうだから救いたい』といった特別な感情があったわけでもないんです。たしかに見た目はよぼよぼでしたが、それ以上に人なつっこいのが印象的で」。
◆過酷な環境を生き延び、みんなを笑顔にする天使
夫の学さんも、「スイは身軽で、出会ったときにすぐに肩に飛び乗ってきてくれて可愛くって。家に着いてからもデレデレの甘え上手。僕は猫を飼うのが初めてですが、もっとそっけないものかと思っていました」と笑う。
「散歩が好きでリードもハーネスも進んで付けさせてくれる、犬みたいな性格。怒ることもないけど、繊細さもなく、どんなフードもよく食べる。もともとの素養かもしれないけれど、このたくましさは、過酷な環境をハングリーに生き伸びてきたからこそかも?」
誰に会ってもごきげんで、近所の犬にもお腹をさらけ出していっしょに遊びたがる無警戒ぶり。そんなスイくんへの想いを、敦子さんはこう語る。
「スイのすごいところは、どんなに私たちがニコニコしても敵わない、会う人会う人を笑顔にしてくれる力。お客さまと接する商売をする私たちのもとに、みんなを幸せにしてくれるこのコが来てくれたことは、天命だと思っています」
(本木文恵)
練馬区と協働の地域猫活動に加え、登録ボランティアのアドバイザーとして後進の育成、ネットや講演活動による地域猫活動の普及・啓発、保護・譲渡活動などを行っている。
公式HP:https://nerimaneko.jimdo.com
ブログ:『ねりまねこ・地域猫』https://ameblo.jp/nerimaneko/
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