天国から帰ってきた“猫” 「むぎ」の音楽はやさしかった!

ステージ上を動き回る
ステージ上を動き回る

 他界した猫が、天国から帰ってきて、歌い、踊り、打楽器を奏でる……。キワモノかと思いきや、昨夏はフジロックにも出演し、テクニックはホンモノとも評価される。独自の世界観が注目されるアーティスト「むぎ(猫)」。東京都内のライブハウスに会いにいった。

 

(末尾に写真特集があります)

 

 東京都世田谷区のライブハウス「FEVER」。歓声の中、ステージに登場したのは、大きなハチワレ猫。一斉にスマホが向けられる。客層は10代から4、50代まで幅広い。


 猫は、曲に合わせて右に左にステップを踏み、柔らかく甘い声で歌う。間奏で木琴を華麗にたたくと、拍手がわき起こった。1曲目を終えると、麦茶のペットボトルをストローで吸い、息を弾ませながら「この曲を1曲目にしたのは失敗」「東京も暑いですねぇ」。


 なんと、“猫”なのに、普通にしゃべる!? ほっこり、ゆるいMCに、会場は温かい笑いでつつまれる。

 

 

◆出会いは21年前

「思っていたよりデカいって、よく言われます。立つと2メートルはあるので(笑)」


 出演前の楽屋に「むぎ(猫)」訪ねると、穏やかな声で迎えてくれた。現在住んでいる沖縄県うるま市から、ライブのために東京にやって来たという。

 

楽屋のソファに可愛く座ってポーズ 
楽屋のソファに可愛く座ってポーズ 

 デビューは2014年。そのいきさつはドラマティックだ。


「実はむぎは9年前に一度死んでいるんです。5年くらいは、天国にいたんけど、カイヌシのゆうさくちゃんがすごーく悲しんで。甦らせてくれたんですよ」


「ゆうさく」と「むぎ」の出会いは、21年前にさかのぼる。場所は東京都練馬区。


 大学で音楽を学ぶために上京した「ゆうさく」は、3カ月でホームシックになった。そんな時、近所の動物病院に貼ってあった「保護猫の飼い主募集」のポスターを見つけ、引き取ることにした。この猫が「むぎ」。ゆうさくのあだ名が“こめ”だったので、穀物つながりで「むぎ」となった。


「一緒に暮らし始めたら、ゆうさくちゃんがすごく明るくなった(笑)。大学卒業と同時にゆうさくちゃんは沖縄に帰って、むぎもゆうさくちゃんの実家で暮らしました。お母ちゃんが毛にブラシをかける係で、お父ちゃんはゴハンくれたんですよねえ」

 

 

◆ペットロスに

 でも、幸せな時間は長くは続かなかった。「むぎ」には脳の病気があり、ある日を境に発作を繰り返すようになり、12歳で生涯を終えた。大切な相棒を失った「ゆうさく」は、ひどく悲しみ、ペットロスになってしまったのだという。

 

(蘇る以前の)むぎちゃん (カイヌシゆうさく提供)
(蘇る以前の)むぎちゃん (カイヌシゆうさく提供)

 そんなある日、「ゆうさく」は、犬の姿で活動するジョン(犬)という音楽家に出会い、大きなヒントをもらったという。猫の“新たな体”を手作りして、自分の体を貸すことで「むぎ」を蘇らせたいと思ったのだ。ジョンも、それはいいと背中を押してくれたという。


 しかし、すぐに音楽活動を始めたわけではなかった。


「ゆうさくちゃんがむぎの体を作ってくれた当初は、ただブラブラと沖縄の町を散歩したりしていたんです(笑)。日本語も覚えていなくて、お喋りもしなかった。しばらくしてツイッターを立ち上げたら、イベントへのお誘いが来て……。立っているだけでは、芸がないので、ライブをやることになったんです」


 猫が歌う、踊る、木琴や和太鼓を叩く。しかも演奏は本格派。大学で打楽器を専攻した「ゆうさく」に“直々に指導を受けている”から、腕は間違いない。


「むぎには肉球がないんですよ。この世に蘇る時に、天使の輪と引き換えに置いてきた。でもそのせいで木琴のバチが滑らない。ニャンフォン(スマホ)も打てますよー」

 

 

◆幅広いジャンルの曲

 自主制作したCD(現在はライブ会場のみで発売)には、むぎが死んで蘇るストーリーを描いた「天国帰り」、気持の大切さを描いた「どんなふうに」、地球温暖化を歌った「アガってく音頭」、ねずみの友達を前に葛藤する「友達は食べちゃダメ」、テクノダンスを披露する「履いてくノロジー」など、曲調はバラエティに富む。

 

 

「むぎ」がアーティストとして、もっとも大切にしていることはどんなことなのだろう?

 

「わかりやすい言葉で歌うことかな。むぎはカイヌシの影響でミュージカルが好きなんだけど、音楽と言葉が一緒に入ってきて感動する。そういうトキメキみたいなものが、お客さんに伝わったら面白いなと思っています」。

 

圧巻の木琴テクニック
圧巻の木琴テクニック

『天国かもしれない』という曲は、レゲエ調で、「大人になったら子どもの気持ちは忘れちゃうのかな」と訴えかける。

 

「あの歌は、保育園の園児がむぎを描いてくれた絵がヒントになりました。むぎが丸で描かれていて、自由で個性豊かな子どもたちの絵に感動するとともに、“そのままでいて”と思いました。“いつもそばにいるよ ずっとそばにいるよ”という詞も書いたんですが、愛する猫に永遠にいてと願うことも、子どもの絵への思いに通じるんですよね」

 

 

◆「放し飼いはダメ」

 地元・沖縄では、すでにCMにも採用される売れっ子。東京、大阪、京都など各地でライブに出演し、会場入り口に並べられたTシャツやタオル、ノートなどグッズもどんどん売れる。猫や犬の仲間の幸せのことも考えて、昨年からはライブ会場で寄付を募るようになったとか。


「うふふ。それまでは、甘党のむぎのために、おまんじゅうとかの差し入れが多かったんですよ(笑)。でも、ひもじい思いをしている仲間もいるなと思い、沖縄の動物保護施設に物資が回るように、“お菓子を差し入れるつもりで現金の差し入れを”とお願いしてみたんです。そうしたら、沖縄のお友達へと書いたポチ袋をライブ開場に持ってきてくれる方が増えました」

 

演奏を終えて決めのポーズ
演奏を終えて決めのポーズ

 沖縄での猫の飼い方は、どんな感じなのだろう。


「むぎとしては、完全室内飼いが全国的に目指されるべきだと思いますけど、沖縄では放浪猫も多いんですよねー。北のほうにはヤンバルクイナ(天然記念物で絶滅危惧種)なんかもいるので、野生動物を守るためにも、放し飼いはだめ。うん。大切なのは捨てないこと、逃がさないことですね」


 最後に、今後の目標を聞いてみた。どんなことをしてみたい?


「いろいろなイベントフェスに出たい。歌を通して優しい気持ちの人が増えたらいいなと思うんです。むぎのライブを見た後に、『早く家に帰って猫をなでたい』とか、『自分の子どもにもっと優しくしようと思った』と言ってくれる人もいるので、これは意味があることだと思う。ずっと続けたいですね。老若男女、雌雄、生き物みーんなのために」

 

 

むぎ(猫)の公式サイト

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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