子犬の飼い方より先に知っておきたい、犬を飼うということ

純真な目で見つめる子犬
純真な目で見つめる子犬

 テレビやインターネット動画などには、かわいらしい子犬がよく登場します。遊ぶ姿や寝姿、飼い主に甘える様子など、その光景に癒やされたことのある方も多いのではないでしょうか。実際、子犬を飼うと、生活に潤いがもたらされ、大きな癒やしや喜びになります。しかし、子犬との生活には、かわいい姿とは違う側面もあります。命ある犬を飼うには、覚悟も必要です。子犬を迎える決断をするまえに、犬との生活を始めるのがどういうことなのか、改めて考えてみましょう。

 

 

◆子犬はかわいいだけじゃない!?

 幼い子犬は、とてもかわいいものです。小さな身体で動き、無垢な瞳をかがやかせて、人になつく姿には、誰もが心を奪われます。まして飼い主になれば、子犬に甘えられたり、喜んでかけ寄られたり、一緒に散歩したり遊んだり。互いに家族のような、かけがえのない存在になるでしょう。


 しかし、子犬も命ある生きもの。人の赤ちゃんを育てるように、手もかかります。


 子犬は常に人間にとっての「かわいい良い子」でいてくれるわけではありません。吠えることや噛むことはもちろん、ティッシュペーパーを引っ張り出したり、水の入ったボウルをひっくり返したり、カーペットの上でおしっこをしたりすることは、犬の世界では「悪いこと」ではないからです。


 飼い主に寄り添って眠る、あどけない姿が子犬の一面であるのと同じように、若い好奇心に満ちあふれ、新しい物や人に吠え、家中の物を噛み、破壊し、独りぼっちになると寂しくて鳴き続けるというのも、子犬の姿のひとつなのです。

 

兄弟がせいぞろい
兄弟がせいぞろい

◆子犬を飼った直後は大忙し

 一人暮らしをしている社会人の方が、子犬を飼うことにしたとしましょう。この方は、平日8時に家を出て、20時に帰宅します。すると、子犬と過ごせるのは、20時から寝るまでと、朝起きてから8時までのほんのわずかな時間。あとは、仕事が休みの土日だけということになります。


 仕事から疲れて帰ってきたあと、子犬が喜んで出迎えてくれるのは大きな喜びでしょう。ところが、家の中が日中の子犬のいたずらとトイレの失敗でぐちゃぐちゃだったらどうでしょうか。ケージに入れていたとしても、中でペットシーツを引きちぎっていたり、排泄物を周囲にまき散らしていたりするかもしれません。


 こうした片付けを終えて、子犬にご飯を与え、やっと自分の時間だと思ったら、今度は子犬が吐いてしまうこともあるかもしれません。そうなれば、慌てて夜間救急にかけこんだり、夜鳴きに悩まされたりと、ゆっくり眠ることもままなりません。さらに、朝はお散歩に行くために、これまでよりも早起きをしなければならなくなります。


 しかもこのような生活では子犬は人間社会にうまく順応できるようには成長しません。


 子犬を問題行動のない犬に育てるためには、毎日の食事や散歩、遊びなどを通したしつけが必要です。例えば、食事は何回かに分けて与え、食事を使って体中を触る練習をしたり、食べている途中に食事を追加することで食事中に近づいたときにうなったりしないように育てる必要があります。


 またお散歩中に人や犬に社会化しておくことや自動車やバイクなど人間社会で遭遇するさまざまなものに慣らしておことも重要です。さらに毎日十分に遊んで子犬のありあまるエネルギーを発散することでいたずらを予防し、飼い主と信頼関係を築いておくことも必要です。


 そのため、日中、家の中に誰もいないなど、子犬のケアをする時間が十分に取れない場合、性格や成長に問題が出るおそれもあります。


 犬は、若ければ若いほど物覚えが良く、教えたことをスムーズに理解します。 早い段階でしっかりしつけを行い、多くの経験を積ませることが、その後の犬との暮らしを幸せなものにしてくれます。子犬を迎えた直後は、自分の予定はできる限り後回しにして、できる限りの時間を犬のために使う努力が必要になります。

 

 

◆犬とは15年前後の付き合いになる

 犬があどけない子犬でいる期間は、ほんの数ヵ月です 。しかし、犬との付き合いは、犬が寿命を迎える15年前後 続きます。その間は、旅行に行く時も、引越し先を選ぶときも犬のことを考える必要があります。


 旅行に行くときは、犬の預け先を探したり、犬と泊まれるホテルや移動手段を探したりしなければいけません。もちろん、犬を預ける場合は、旅行に行くまえにペットホテルなどの施設に行く必要があります。つまり、夜遅くに帰宅して、翌日早朝の便で旅立つといったことはできないのです。いっしょに旅行に行く場合も、飲食店や観光地には犬の入れない場所がまだまだ多いため、旅程がかなり限られます。


 住宅は、賃貸であれば「ペット可」の所を選ぶ必要がありますし、退去時のルームクリーニング代も高額になることを覚悟しなければならないでしょう。


 さらに、犬が老犬になると、認知症になって問題行動を起こしたり、介護の必要が出たりする可能性があります。


 人間も、15年のあいだに生活環境や家族構成が変化することがあるでしょう。しかし、犬を飼っている以上、何をするにしても、犬の世話をする人がいなくなることがないよう、気を配らなければいけません。

 

ぐっすり眠る子犬
ぐっすり眠る子犬

◆犬と楽しい生活を送るために

 自分を一番に愛してくれる犬との生活は、幸せに満ちあふれたものです。犬と過ごす日々は、飼い主に大きな喜びと笑顔を与えてくれることでしょう。


 しかし、犬を飼うことで、生活にさまざまな変化や制限が生まれることも事実です。こうした変化を事前に理解し、対応策を練っておかなければ、楽しいはずの犬との生活が、犬にとっても人間にとってもストレスいっぱいのものになりかねません。


 子犬を迎えるまえに、自分や家族の人生と犬の一生を考え、犬にどれだけの時間と労力、お金をかけられるか検討してみてください。その上で迎える決断をしたのであれば、犬のための時間をしっかり取って、早い段階で適切なしつけを行いましょう。犬と暮らすということは、その犬の一生に責任を持つということでもあるのです。


 心構えと対策がきちんと出来ていれば、犬との暮らしは、その苦労を大きく上回る幸せをもたらしてくれるはずです。

 

「こころのワクチン ――子犬に教える人としあわせに暮らす方法」


著者:村田香織
出版社:パレードブックス
定価:1,543円 (税込)
体裁:四六判・294頁(ソフトカバー)

監修:村田香織
獣医師、もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。日本動物病院協会(JAHA)の「パピーケアスタッフ養成講座」メイン講師でもある。「パピークラス」や「こねこ塾」などを主催、獣医学と動物行動学に基づいて人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。

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この連載について
子犬の飼い方・しつけ方
犬のしつけで大切なのは、子犬の時期。飼い方やしつけのポイントを、動物行動学に詳しい獣医師に解説してもらいます。
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