千葉で保護された中年猫 横浜で優しい“お姉さん”と熱愛中?!

愛さんと、トロ君
愛さんと、トロ君

 保護猫を引き取って飼い猫にすることが広まりつつある。それでも子猫の方がおとなの猫より、もらい手が見つかりやすいのが現実だ。その中で、5歳を過ぎて、新しい飼い主と出会い、幸せに暮らすオスの中年猫がいる。安住の地を見つけた「トロ」に会いにいった。

 

(末尾に写真特集があります)

 

 ブティック、靴屋、洋菓子店……老舗が並ぶ横浜市の元町商店街からほど近い住宅地。3階建ての住宅が、雑種猫のトロ(推定5~6歳)の“新居”だ。


「彼は私の部屋にいますので、どうぞこちらへ」


 一家の一人娘で、画家の大野愛(めぐみ)さん(29歳)に案内されて、3階まであがった。扉を開けると、茶白模様の大きな猫がベッドに悠然と寝ていた。


「トロ君はいつもベッドでゴロゴロしています(笑)、甘えん坊なんですよ」


 トロが愛さん宅に来たのは、今年7月後半。それまで約7か月間、千葉県市川市のペットの複合施設「アニマルライフ」の“譲渡コーナー”にいた。さらにその前には、千葉市の動物保護指導センターに収容されていた。

 

アニマルライフの猫譲渡コーナーにいた頃(右のウニも新たな家族の元で幸福になった)
アニマルライフの猫譲渡コーナーにいた頃(右のウニも新たな家族の元で幸福になった)

「アニマルライフ」の南行徳店チーフ、小山武志さんが説明する。


「トロは動物保護指導センターから、同時に収容されていたもう1匹の猫と一緒に引き取りました。獣医師の見立てでは推定5歳くらい。2匹は仲良く千葉市の本店にいたのですが、途中から喧嘩するようになり、5月にトロだけを南行徳店に移したんです」


 別々にしたところ、1匹の譲渡先はすぐに決まった。だが、トロのほうは、なかなかもらい手が決まらず……その様子が愛さんに伝わった。愛さんがいう。


「今年初めにアニマルライフの内装やイベントサポートなどを手掛ける会社の方と知り合い、アニマルライフが“生体販売を辞めて保護犬や保護猫の譲渡を始めた”ということを知ったんです。活動に共感して、アニマルライフの社長さんと連絡を取り合うようになって、トロ君のことを聞き、会いに行きました」


 実は会う前に、引き取る決意をして、トライアルの申込みに行ったのだった。

 

先住のチビはちょっと、びびり屋さん
先住のチビはちょっと、びびり屋さん

 愛さん宅には、13歳の雑種のオス猫「チビ」もいる。同居する両親や祖母にも事情を説明し、「ぜひ家の子にしよう」と家族会議で決めていた。チビはもともと大磯の海岸にいた猫。チビを母代りに育てたのが、家にいた2匹のメス猫だった。その2匹は数年前に死んだが、やはり愛さんが小学3年生の時に学校で保護した猫だったという。


「もともと家族はさほど動物好きでなかったけれど、私が好きにさせちゃいました(笑)。私は一人っ子のせいか、動物は兄妹のような存在。インコやハムスターなどいろいろ育てましたよ」


 愛さんは物静かな印象だが、動物のことになると、熱く語る。


「6歳のころ、ペットショップに親とカメを買いに行きました。数匹いた中に、コブがあったり首の曲がったカメがいて、見ていたら店の人が『これはダメだ』と別のカメを勧めたんです。『ダメなカメはどうなるの?』と聞いたら、『処分するんだ』と。それで私は『おとなは動物を大事にしろと言いながら捨てるのかーっ』とブチ切れたんです(笑)」


 カメは2匹とも愛さん宅で引き取り、そのうちの1匹、首の曲がった亀は、23歳の今も家のベランダで元気にしている。


 5年前には、元町で瀕死の黒猫を保護して、アトリエで育てた。虐待されたらしく、大やけどを負っていた。手厚く看護すると持ち直して元気になったが、古傷がもとで昨年旅立った。

 

愛さんが保護してアトリエで育てたクロ
愛さんが保護してアトリエで育てたクロ

  こうした弱いもの、動物への思いは、愛さん自身が患った病気にも関連しているようだ。愛さんのお腹には、約20センチの手術痕がある。


「切腹みたいな横長の傷です。腸の先天的疾患で、3歳の時に容態が急変して開腹手術を受けました。100万人に1人の病だと言われ、その病院で初の手術例でした。ひょっとしたら死んでもおかしくなかった……そう思うと知らず知らずのうちに、身近にいるはかない命を救いたい衝動にかられるのかもしれません」


 しばらく話をした後、愛さんが猫用おやつを用意すると、トロは布団の中から、もぞもぞとはい出てきた。トロは食いしん坊で、家に来た当日も、しばらく部屋の隅に隠れていたが、おやつの袋を見て、出てきたという。

 

大好きなおやつを指からぺろり
大好きなおやつを指からぺろり

「家に着いて2時間で仲良くなり、その日から私と一緒に寝ています(笑)。先住のチビは父にべったりでこの部屋には来ないので、私は相棒ができてうれしいんです。トロ君の希望は部屋の外に出ること。扉の向こうにどんな世界があるのかと興味津々で、ドアを開けようとする。というかドアノブを自分で開けてしまうことがあったので、父に鍵を付けてもらったんですよ」


 トロを自由にさせないのは、とても臆病なチビの性質を考えてのことだ。時間をかけてケージ越しに対面させ、少しづつ慣らしているところだという。


「私は日中アトリエで絵を描き、トロはここで過ごしますが、窓辺から外を眺めるのが好きみたい。山手隧道(ずいどう)を通り抜ける車を、いつも眺めていますよ」


 愛さんは画家として、個展を開いたりライブペイントをしたり、精力的に活動している。「この先、もし結婚したら、トロは?」と聞いてみた。


「チビと仲良くなっていたら、2匹を離したくないけど。でも、トロを手放すことを想像できません。結婚自体がもっと先になるかも……今はトロに夢中なので」


 中年猫「トロ」と美人画家の甘い生活は始まったばかり。密月はまだまだ続きそうだ。


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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この特集について
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