セラピー猫ステラ おっとり動じず、リハビリ施設の癒やしに
4歳のラグドール、ステラはアメリカの「セラピー猫」。飼い主でハンドラーのスーとともに、2か所のナーシングホームをそれぞれ2週間に1回ずつ訪問している。
ステラとスーはセラピーアニマルの全国組織である「ペット・パートナーズ」登録のチーム。1977年に設立されたペット・パートナーズ(2012年まではデルタ・ソサエティという名称で知られていた)は、人と動物の絆がもたらすポジティブな効果についての啓発とアニマルセラピーの普及を進めてきた全米最大規模の団体だ。15,000以上のセラピーアニマルとハンドラーのチームがペット・パートナーズに登録し、動物介在活動(AAA)や動物介在療法(AAT)の現場で活躍している。
登録されている動物は犬が94パーセントを占めるそうだが、他にも8種類の動物たちがいる。猫、ウサギ、ギニーピッグの他に、なんとミニチュア・ホース、ミニチュア・ピッグ、ネズミ、ラマやアルパカもいる。猫は全体のわずか1パーセントしかいないそうなので、ステラはとても貴重な存在だ。
6月のある日、スーとステラがリハビリ専門のナーシングホームを訪問するのに同行させてもらった。最初に立ち寄ったのは、この施設に入院して1年半になる87歳の女性。ずっと猫を飼っていたという彼女は言った。
「ここに来る前、ちょうど自分の猫を亡くしたばかりだったの。スーがドアをノックして、猫に会いたいかと聞いたときは、もうワクワクしたわ!」
ベッドの上に猫柄の毛布を敷くと、ステラはその上でさっそく香箱座りをし、リラックスした様子で目を細める。その柔らかい毛を女性はいとおしそうになでた。
スーはこれまでずっと保護猫と暮らしてきたそうだが、セラピー活動ができる猫が欲しいと思っていた彼女は、おっとりして物に動じないラグドールの気質が活動に向いていると知り、初めて純血種の猫を飼ったのだそうだ。ラグドールのブリーダーから、「この子ならいけるかも」と勧められたステラは、はたしてセラピー猫にぴったりだった。輸血のドナーとして動物病院に連れていってもいたって平静で、血圧も心拍数もまったくふだんと変わらないという。
スーはもともとジンジャーという犬といっしょに訪問活動をしていたが、ジンジャーは昨年引退し、5月に亡くなった。最初のうちは、この施設にもステラとジンジャーを交代で連れてきていたそうだ。犬なら1回の訪問(約1時間半)で15人以上回れるが、猫はいったん落ち着くと動くのを好まないため、7〜8人だという。
この施設に1年ほど入院しているカーラという64歳の女性の部屋を訪ねる。ベッドの上で自分の居心地のいいポジションを見つけ、ゆったりと落ち着いたステラをなで、カーラは満面の笑みを浮かべた。
「私は犬も猫も両方好きだけど、猫のよさは、自分がしたいことしかしないということ。猫がそばに来てゴロゴロ言ったり、胸の上に乗ったりするのは、そうするように訓練されたからじゃなくて、猫自身がそうしたいから。だから、よけい特別なことに思えるの。猫に選ばれた、その瞬間が……」
スーもうなずいた。
「私も猫がひざに乗ってきたときは絶対、動かないわ。その瞬間、世界が止まるのよね」
この会話、猫好きなら誰もが大きくうなずくことだろう。私も猫が自分からひざに乗ってくれたときは、うれしすぎて動けない。
この日、スーとステラは1時間半かけて7人の部屋を回ったのち、活動を終えた。保険会社を定年退職する前から活動を始め、今年で11年になるというスーに、やりがいは何かと聞いてみた。
「施設にいる人たちに、ほんのひとときでも喜びをもたらせること」
そして、こう言った。
「動物には人を幸せにする力があるからね」
もし私が交通事故や脳こうそくなどの後遺症で、長期間のリハビリ入院を余儀なくされたとしたら−−−−。何がつらいと言って、自分の猫に会えないことほどつらいものはないかもしれない。そんなとき、たとえ自分の猫ではなくても、あの温かく柔らかい毛並みに触れることができたなら、どれほど慰められるだろう。
残念ながら、セラピー猫は日本でもアメリカでも希少な存在のようだが、スーのように最初からセラピー活動に向く気質を持った猫を子猫のときから育てるなら、もっと多くの猫が活躍できるかもしれない。
次回のコラムでは、子猫のときからそのように育てられ、子どもたち相手に活躍しているセラピー猫のことを紹介したい。
◆大塚敦子さんのHPや関連書籍はこちら
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