死期が迫った飼い主、残される愛犬の余生思う スペイン映画
がんを宣告された初老の男性が飼い犬の新たな飼い主探しをする日々を描いたスペイン映画「しあわせな人生の選択」が7月1日に公開される。原題は男性の飼い犬の名で「TRUMAN(トルーマン)」。日本でも問題化しつつある、飼い主の老いとペットのことを考えさせられる作品だ。
主人公はがんで死期が近いフリアンと、その古い友人でカナダから4日間の日程で会いに来たトマス。やるべきことはたくさんあるはずの2人なのに、フリアンは最後の時間の多くを飼い犬のトルーマンの新たな飼い主探しに奔走する。
フリアンに寄り添うトマス役の俳優ハビエル・カマラさん(50)は、「離婚して、大学生の息子は留学しているフリアンにとって、家族はトルーマンだけ。自分自身のことについてはやり残したことはない。だからトルーマンのために新しい生活を提供できるかどうかが、彼の最後の課題になっているのです」と話す。
トマスがスペインに到着すると、久しぶりの再会にもかかわらず、2人はまず動物病院へ。フリアンは、獣医師に次々と質問する。
「犬も喪失感を感じるのか?」
「新しい家族に引き渡す時は、俺のにおいのついた服を持たせるべきか?」
動物行動学では、犬が「悲嘆様行動」をとることが知られている。飼い主や一緒に飼われていたほかの動物が死ぬと、犬はそれを悲しむような行動をとることがある。
生活スタイルの変化が犬にとって大きなストレスになることもわかっている。東大大学院の武内ゆかり教授(動物行動学)も「飼い主の変更は犬にとってかなり大きな変化。犬の精神疾患の一つである分離不安の原因になりうるものです」と指摘する。
カマラさんは「スペインをはじめ欧州では、高齢者が愛するペットに新たな生活を準備してあげることは、よくあることです」。
日本では、全国の自治体の保健所などに引き取られる犬猫のうち、飼い主が高齢のために飼い続けられなくなったケースが大きな割合を占めるようになってきている。特に一人暮らしの高齢者の場合、共に老いてきた飼い犬の行く末を考えられるよう周囲のサポートが不可欠になっている。
「ペットが家族や子どものような存在になっているのは、日本も同じだと聞いています。映画ではトルーマンが家族、そして別れの象徴になっていますが、そういう状況は実際にたくさん存在するのです。日本でも多くの方に共感してもらえると思う」とカマラさんはいう。
本作はスペインのアカデミー賞と言われるゴヤ賞を5部門で受賞。7月1日からヒューマントラストシネマ有楽町(東京)などで公開されるほか、順次全国で公開を予定している。
(太田匡彦)
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