殺処分寸前で助かった保護猫タビオ 真菌とのバトルが…!
うちにはマルオという推定3〜4歳の茶トラの男の子がいる。福島から来た被災猫福ちゃんが一昨年腎不全で亡くなったあと、迎えた子だ。
原発事故で家族と離ればなれになり、苦難の末にうちに来てくれた福ちゃんは、猫の一人称であの事故について語る写真絵本『いつか帰りたい ぼくのふるさと』の主人公キティ。これまで私は8匹の猫と暮らしたが、福ちゃんには特別な思い入れがあった。
その福ちゃんを失った後、私は人生で初めてペットロスに陥りそうになった。そこで、これではいけない、また被災猫を引き取って、福ちゃんの分まで愛情を注ごう――そう思って、いまも福島の猫たちの救援を続けているシェルターを訪ね、出会ったのがマルオだったのだ。
マルオは福島から来た猫ではなく、交通事故に遭って道端に倒れていたところを助けられた猫だった。事故で後脚を負傷していたが、うちに来て毎日階段を上り下りしているうちにすっかり元気になり、猫でない私には遊び相手が務まらないほどになった。そこで、マルオと仲よくなれそうな猫をもう一匹迎えることにし、沖縄の動物愛護センターから来たタビオ(生後6か月ほどのオス)を選んだのである。
夫と私は猫との同居歴25年。それなりの経験は積んでいるつもりだったが、成猫の先住猫に子猫を引き合わせるのは初めてだ。アメリカで一般的に行われている新入り猫導入プロトコロル(数週間かけてじっくり引き合わせる)を研究し、くれぐれもトライアルに失敗しないよう慎重に事を運ぶことにした。前日にはフェリウェイ(猫用フェロモン製剤)拡散器まで設置し、ドキドキしながらタビオの到着を待った。
ところが、である。
2月19日、わが家にタビオを連れてきてくれたシェルターの人が、申しわけなさそうに言った。
「じつは、今日になって、真菌に感染しているのを発見したんです・・・」
彼女が指さすタビオの右耳を見ると、付け根のあたりが赤くなり、少しハゲている。すぐに抗真菌薬ケトコナゾールの軟膏を塗り、真菌に効果がある薬用のシャンプー(マラセブシャンプー)もしたという。
「当分マルちゃんといっしょにすることはできないと思いますが、どうされますか? 治ってからまた連れてきましょうか? それとも・・・?」
このとき、私には「真菌=リングワーム」であることがわかっていなかった。もしリングワームだと知っていたら怖じ気づいたと思うが、そのときは「真菌かあ。水虫みたいなものだから、たいしたことはないだろう」。
軽い気持ちで、「いいですよー、このままお預かりしますよー」と返事し、タビオは私の仕事部屋に隔離することにした。
そして翌日、猫の真菌についてインターネットで調べ、これはあの恐るべきリングワームのことだとわかって青ざめたのである。リングワームには、アメリカに住んでいたとき初めて迎えた二匹の子猫が感染して大変な思いをした。そのときはかなり広範囲に脱毛症状が出たため、子猫たちの全身の毛を剃って薬用シャンプーで洗わなければならず、除菌のために毎日掃除機をかけ、漂白剤を薄めた液で床や家具を拭くという骨の折れる作業もあった。猫の真菌は命に別状があるような危険なものではないけれど、人にもうつるし、極めて感染力が強いうえに、2年近くも生き続けるしぶとい菌だからだ。
あ~、それなのに、よりにもよって、タビオの隔離部屋として、私の仕事部屋を選んでしまったとは! この部屋には3枚もカーペット(しかも2枚はシャギー)が敷いてあり、山のような書類や本(つまり廃棄できないもの)がどっさり積んである。タビオとはすでにたっぷり遊び、部屋中を走り回ったから、タビオの毛から落ちたリングワームの胞子もいたるところにまき散らされてしまったにちがいない……。
頭がくらくらしながらも、とりあえずはカーペットをクリーニングに出し、猫ベッドの毛布やクッションカバーなど布類をすべて洗濯。その後、タビオを連れて、いつもお世話になっている近所の動物病院に駆け込んだ。
タビオを診た先生は、落ち着いた声で「左の耳にも広がってますね。でも、私たちの経験では、これから全身に広がるとか、そんなにこじれたことはないんですよね」。
そして、治療方針としては、ケトコナゾール軟膏を一日二回患部に塗布するのと、週二回のマラセブシャンプーを続け、様子を見る。同時に、タビオの部屋の除菌のために、以下をおこなうことになった。
・掃除機をかける(毎日)
・ベッドの毛布や椅子のカバーなど布類を洗濯(毎日)
・1:10に希釈した塩素系漂白剤で、床や家具を拭く(隔日)
・バイオウィルという除菌スプレーを空中散布(隔日)
マルオと隔離した状態で、これを何週間も続けるのか……ぎっくり腰、まだ治ってないんだけど……などなど、いろんなネガティブな考えが一瞬頭をよぎった。夫は「いったんシェルターに戻して、治ってからトライアルしたほうがいいんじゃない」などと言い出す。が、大事なことを思い出した。
タビオは明日殺処分される、というときに、たまたま愛護センターに立ち寄った人によって命を救われたという。そして、はるばる沖縄から埼玉のシェルターに運ばれ、そこから東京のわが家に来たのだ。抱き上げるとすぐゴロゴロ言って喜ぶ人なつっこいタビオ。おおらかで元気いっぱいに見えたけれど、度重なる環境の変化で相当不安やストレスを感じているにちがいない。もうどこにも行かなくていいよう、わが家を終の住処にできるよう、早く真菌をやっつけよう! 私は気合いを入れ直した。(続く)
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