都が8週齢規制を要望へ 次は都条例の改正も期待

イラストレーション/石川ともこ
イラストレーション/石川ともこ

 東京都でまた動物愛護法を巡って大きな動きがあった。悪い話と良い話が一つずつ。

 悪い話から。多摩川の河川敷で、ホームレスの男性が犬の多頭飼育にまつわる問題を起こしている。男性は約20匹の犬を、狂犬病予防注射をしていないなど狂犬病予防法違反の状態で、かつ劣悪な虐待的環境で飼育。この男性に対して都は2015年4月から24回の巡回を行い、狂犬病予防法に基づく指導を13回行ったが、「課題解決に至らなかった」(原口直美・環境衛生事業推進担当課長)。

 こうした状況を一部都議が問題視し、テレビなどが報道したこともあり、問題が顕在化。都はその後、11月に入って巡回する時間帯を変更して頻度を高め、指導人員も増強した。だが依然として「狂犬病予防注射を打ってもらっていない。より良い解決ができるようにしたい」(原口課長)と繰り返すのみだ。

 ことが大きくなるまで有効な手を打たず、問題を実質的に放置し続けるのは、このコラムの第5回でも取り上げた昭島市のペット店への対応と酷似している。今回は、その後も根本的な解決策が提示できないのだからさらに深刻だ。

 こうした状況に対して動物愛護団体などが主張するのは「緊急保護」の制度化だ。今回の多摩川の事例でいえば、所有権は男性に持たせたまま、動物福祉の観点から地方自治体などが一時的に犬を保護するという制度だ。都は今回の事例を「立法事実」とし、国に対して緊急保護の制度化を求めるべきだろう。しかし、原口課長は「考えていない」と腰が重い。

 良い話。東京都といえば一方で、小池百合子氏が「殺処分ゼロ」を公約に掲げて都知事に当選した。その小池氏が12月都議会で、動物愛護法の内容を大きく前進させる可能性がある方針を明らかにした。

 

 以下は12月8日の一般質問で塩村文夏都議が、次の動愛法改正に向けて都としてどのような要望を行っていくのかを問うたことへの小池知事の回答だ。重要な答弁なので長めに引用しておく。

「動物取扱業者に法令順守を徹底させて、適正に監視・指導を行うためには、犬や猫を飼育するケージの大きさなど飼養の施設や飼養環境に関しまして、省令などによってより具体的な基準を盛り込むことが必要と考えます。

 また我が国の場合は特にパピー、子犬とか子猫を好む傾向があるわけでございますけれども、そういった犬猫を販売してはならない週齢、その期間、さらには親から離す時期などについても改めて検討することが必要だと考えます。

 現在、国は販売規制の期間について調査を行っていると聞いておりますが、都といたしましては法改正に向けた検討などの機会をとらえまして、国に対して必要な事項を要望していきたいと考えております」

 子犬や子猫の大消費地である東京都のトップが、飼養施設規制や8週齢規制の実現に向けて積極的に発言した意義は大きい。札幌市や埼玉県三郷市のように、8週齢規制を条例に盛り込むところまで踏み込んでほしかったが、それは今後の取り組みとして期待したい。今回の二つの動き。いずれも、動物福祉を向上させる法改正を次こそ実現するための、大きなステップになるはずだ。

(太田匡彦)


(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年12月発行)掲載)

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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