RSPCA動物福祉短期研修会レベルⅡを開催

 2015年に初めて、RSPCA短期研修会レベルⅠ(基礎コース)を修了された方を対象に、より実践的な内容となるRSPCA動物短期研修会レベルⅡを、10月16日から2日間、東京で開催しました。

 講師は、弁護士で動物虐待事例の豊富な経験を持つ訴訟担当シニアマネージャーのフィル・ウイルソン氏を招聘し、英国における動物虐待の実例について講義していただきました。また、四つのグループに分かれて、他機関との連携協働をするための原則や各動物種の動物福祉実施規定について、各グループで議論し作成していただきました。

 以下に、グループ作業内容を中心に研修会の概要を報告いたします。


◎動物虐待の四つのカテゴリー

①積極的虐待
②ネグレクト
③精神的虐待
④性的虐待

 これらのカテゴリーは児童虐待と一緒であり、一人の加害者が人も動物も被害者にしてしまうことをリンク(LINK)という。動物虐待は人への虐待と密接に関連する。


◎英国における動物虐待を取り巻く環境

・RSPCA調査官は立ち入り権限を持たない。そのため、動物虐待などで立ち入り調査が必要な場合は、警察と協働する。

・英国の法律でも動物は物と定義されている。しかし、所有者は所有物を守る義務があり、守れないときは代わりに警察が守ることができる、そのため、警察は所有物が破損しないように所有者から押収することでき、また、犯罪の証拠として所有者から取り上げることができると法律で決められている。

・所有権の移動(押収)は裁判所が認め、法律に基づいて国が行う。その後、RSPSAへ所有権が譲渡される。

・飼い主の飼育能力を超えた過剰多頭飼育=ホーダー問題は、飼い主の精神衛生のケアが必要不可欠。そのため、精神科医やカウンセラー等と協働する。

 動物虐待等の事件解決には、他機関との協働が大切であり必要不可欠である



◎グループ作業

1)どのような機関と連携をとっていったらよいか 

 警察、消防、自衛隊、動物園・水族館、精神科医、カウンセラー、獣医大学、獣医専門医(法獣医学など)、獣医師会、法律家、住宅局、動物取扱業者、愛護団体、人の福祉関連(児童相談所、民生委員、ケースワーカー、ソーシャルワーカー、ヘルパー)など

2)協働するための準備

・連携する機関と協働する上で、計画の段階でしっかりと同意書を交わしておくことが重要。
 実際に協力しなければいけない状況がおこる前に同意書を取り交わしておくと、緊急時に動きやすくなる。

・同意書の内容
 ・RSPCAが警察に対して協力できることの一覧
 ・警察がRSPCAに対して協力できることの一覧

・同意書を交わすための心得
1)契約を交わす主たる人物を識別する
 より高い地位にいる人物と取り交わす方が協働はスムーズ。
 例)警察との連携ならば、警察署とRSPCA動物査察部のトップ同士で取り交わしている。
2)自分達の役割と何ができるかを説明する
3)自分と相手の限界を明確化す。
4)利害が対立した際、自分達に有利となるための相手への説得方法を考える
5)自分達が引き受けられる限界を知ること
6)自分達がどこまで請け負えるか自覚をもつこと
7)推進する計画を綿密にたてる
8)計画に参加する全員の安全と健康を守ること
9)危機管理体制作成
10)万が一、予測した結果を生むことができない、又はとんでもない事態が生じてしまったときに備え、どのように弁明するかも用意しておくこと

3)動物福祉実施規定(コード・オブ・プラクティス)の作成(※各グループで犬・猫・うさぎ・非ヒト霊長類のコードを作成)

・英国環境省から文章としてだされている各動物種のコードが、RSPCA査察官が視察時に使用する全国統一のアセスメントの基準。

・公的なコードが策定されているのは、犬・猫・うさぎ・馬(ポニー・ロバ)・非ヒト霊長類。

・コードは、このコードを使って、各動物種を飼養するアドバイスをするものである。

・コードは、あらゆるタイプにもあうように(例えば、どのような犬種にもあうように)広範を網羅するように作成する。

・内容 
1)イントロダクション
 その動物種の生理・生態・習性と飼養にはお金がかかることを説明し、法律(動物の管理と愛護に関する法律)に基づいて、動物の福祉が守られているかどうかということを検討するためにこのコードは必要であることを明記。

2)動物種にとっての5つのニーズについて説明
 <5つのニーズ(英国動物福祉法2006第9条)>

 ①適切な環境
 ②適切な食餌
 ③通常の行動パターンを表現すること
 ④他の動物と一緒にもしくは隔離して生活すること
 ⑤苦痛・外傷・疾病から守られること

 例)適切な環境(犬の場合):安全で安楽に時間を過ごせる場所、湿気や隙間風が入らない場所、すべての犬種が自分の恐れるものから身を守ったり、安心できる場所の提供。など

3)ニーズを満たすため、飼い主がすべき項目を作成
 例)適切な環境(犬の場合)
 ・安全で湿気のない清潔な隙間風の入らない場所を犬に与えなければならない。など


◎感想

 今回の研修会では、グループ作業がメインでしたが、参加者の皆さんはとても熱心に議論され素晴らしい内容の成果物を発表されていました。他機関との協働は、事件解決にはとても大切なことであり、日本でも早急に構築していく必要があります。また、各動物種の動物福祉実施規定の策定は公平且つスムーズに仕事を実行する上で大変重要です。

 動物福祉を守るための綿密な体制作りが必要不可欠であると再認識させられた研修会でした。今回のグループ作業内容が、実際に日本の動物福祉に1日でも早く生かされることを願っています。

この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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