動物愛護センターの動物に対する取り扱いについて要望書を提出

 2014年7月、住民の方からセンター職員が引き取った「飼い主を数回も咬んだ攻撃性の強い日本犬(アイヌ犬)」をモップで殴っている行為を2度目撃したとの連絡があり、当協会でもセンターへ事実確認を行ったところ、センター職員は「しつけ」として行っていることを認め、今後も同様の「しつけ」を実施していくとのことでした。

 暴力による「しつけ」と称した行為は、動物の問題行動の悪化につながる危険性と虐待にあたる可能性があります。

 そこで、当協会は、
①「しつけ」と称した暴力による罰をやめること
②職員を含めた市民の安全を守るという観点から、攻撃性の強い犬を譲渡対象にしないよう「譲渡対象動物の適正基準」を見直すこと
 の二つの事項を要望いたしました。

<参考>道具を用いて叩いたりするような行為に関しての科学的な根拠として、米国獣医行動学専門医である入交先生の見解です。

道具を用いてたたいてしつける行為に関して行動学専門獣医師の見解
日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科
入交眞巳(獣医師 博士 米国獣医行動学専門医)


 日本犬(アイヌ犬)を、道具を用いてたたいてしつける行為に対し、その有効性や科学的根拠に関してご質問をいただきました。

 日本犬を含む犬をはじめ、すべての動物種において行動を制止するためにオペラント条件付けの「罰」を使用することはありますが、罰には「負の罰」と「正の罰」の2種類あり、痛みや不快感を与えて行動を制止する「正の罰」に関してはそれを有効に働かすためにはルールがあります。

 そのルールは行動を起こすたびに毎回、その行動の直後に、適切な強さで痛みを与えなければならないものであり、人がたたいたりすることでその「罰」を与えることはロボットのような正確性を持った人でない限り、不可能な方法であるため、人が手を下すような「正の罰」は動物に対して使用するのは難しいことが心理学、行動学の分野から理解されています。また、学習の理論とオペラント条件付けを提唱したスキナーでさえ、「罰」を与え続ける訓練で動物の行動を制止し続けることは不可能である、と記載しています。

 道具を用いてたたいてしつける方法で犬の行動を制止することは、学習の理論的に、科学的に無理とわかっている方法であることをまずご理解いただきたいと思います。

 たたき続けている場合は、科学的に効果がないと分かっていることをやり続けて痛みを無駄に与え続けているに他ならないため、「虐待」と考えられる可能性あります。

 さらに「西洋の犬と違って日本犬はたたかないとわからない」との意見に対し、西洋の犬と日本の犬の性格の違いに関しては1999年にNiimiらが遺伝子を調べて、ドーパミン受容体の遺伝子構成から新規探査傾向が柴犬とゴールデンレトリバーでは違いがある可能性があることを示唆している論文はありますが、それは日本犬はたたいてしつければよいという意味の論文ではなく、日本犬は怖がりで変化をあまり好まないかもしれないけれど、リスクテーカー(怖いのに近づいて行ってしまう)である可能性が高いと示唆しただけで、論文から日本犬の方がむしろ不安傾向が強くて怖がりだから、日本犬こそたたいてしつけてはいけないことがわかります。

 犬を始めどんな動物も一貫性がない状態で、人が手を下すのでタイミングが合っておらず条件付けできない状態で痛みを与え続けられると、「学習性の無気力」に陥り、何も抵抗をしなくなるという人で言う「うつ」のような状態になります。この状態をみて、たたくことによって「おとなしく、いうことを聞くようになった」と勘違いされることがあります。しかし、これはなにかの拍子に、今度は動物が「爆発」する可能性があり、人で言う「切れた」「パニック」の状態になり、今以上の激しい口傷事故や一般市民への被害を出しかねないので、すぐに中止しないと大変危険なことになる可能性を秘めています。

 最後に激しい攻撃行動を見せる日本犬を獣医師としてよく拝見しており、治療をしていますが、彼らの多くは脳内のセロトニンの枯渇が原因であることが多いと考えます。これは1996年のReisnerらの報告にもありますが、「激怒症候群」と当時呼ばれていた激しく攻撃する犬の脳脊髄液を調べたところ、セロトニンとドーパミンという脳内ホルモンのバランスが崩れていることが判明し、これは遺伝的な問題があったり、ストレスが関連するものであり、セロトニンを増やす薬(抗うつ剤)を投与することでコントロールできるようになります。

 また、犬の攻撃性は不安からくるものであることがほとんどで、たたかれることで不安はさらに大きくなるし、不安や攻撃性を下げるセロトニンが人からの暴力によりさらに枯渇していきますので、攻撃性は強くなります。管理センターでは「うつ」状態で表面的に抑制されていたとしても譲渡後に非常に危険な状態になる可能性が高くあります。

 一般的に、しつけの名の下で、たたく、ける、道具を用いてたたく行為また電気でショックを与えるような行為は虐待となる可能性があります。また、一般市民をより危険にさらす危険性も含んでいます。攻撃性が強く、その修正のためにしつけと称した虐待を与えてしてしまった動物は、市民の安全を考慮した場合、譲渡すべきでないことも付け加えさせていただきます。

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この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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