「野良猫対策」について、ALIVEが113自治体アンケート

昨年5月、当会調査『全国動物行政アンケート結果報告書(平成25年度版)』をもとに、犬猫収容総数、所有者のわからない犬猫収容数、譲渡数・譲渡率、殺処分などの現状について解説した記事を掲載頂きました。

猫問題の解決を早急に ALIVEが「全国動物行政アンケート」結果を公表

本稿では、動物行政を所轄する113自治体(都道府県、政令指定市、中核市、保健所設置市)を対象に当会がアンケート調査をおこなった「野良猫対策(野良猫の推定頭数の把握、不妊去勢手術予算額、助成予算実績等)の結果報告と、国の考え方や自治体の取組について掲載させて頂きます。


 

■国の考え方、自治体の取組み

 殺処分問題のみならず、飼い主のいない猫(いわゆる野良猫)を取り巻く問題は多岐にわたります。

 発情期の鳴き声に対する苦情、ふん尿などによる被害トラブルの発生をはじめ、屋外で暮らす猫たちが受ける過酷なストレス、暑さや寒さ、飢え、病気や感染症、事故などの生存をおびやかされる事態に心を痛めて解決しようと考える人と、猫が増えていくことに危機感を持たない人との軋轢など様々です。一朝一夕に解決できるものではないことから、国も指針をつくり、自治体も様々な取り組みをはじめています。

 平成23年8月31日に開催された中央環境審議会動物愛護部会 動物愛護管理のあり方検討小委員会(第19回)では、自治体等の収容施設、犬猫のマイクロチップの義務化、犬猫の不妊去勢の義務化、飼い主のいない猫の繁殖制限等の議論がおこなわれましたが、以下をはじめとする複数の資料が公開されています。

『住宅密集地における犬猫の適正飼育ガイドライン』

『飼い主のいない猫の繁殖制限(アンケート調査)』

 そして同年12月にとりまとめられた『動物愛護管理のあり方検討報告書』には、飼い主のいない猫の繁殖制限の対策について、以下のように示されています。

「飼い主のいない猫の問題について、地域住民が合意のもとに猫を管理する「地域猫活動」と呼ばれる活動によって成果を上げつつある事例が見られるが、依然として不適切な給餌や不妊去勢の未処置により猫が増える事例は全国的に見られ、その結果、猫の殺処分はあまり減少していない。この問題の解決には、地域住民や行政担当者等、関係者による地道な努力が重要であり、一律の規制ではなく、条例や自治体による指導等で地域の実情に合った対策を講ずべきである。」

 平成13年度~15年度までの3年間で「飼い主のいない猫との共生モデルプラン」を実施した東京都では、平成18年より、モデル地域での取り組み例を複数掲載しています。

『東京都福祉保健局「飼い主のいない猫」との共生をめざす街ガイドブック』

 東京都新宿区は地域ねこ対策を分かりやすく紹介した資料を作成・公開されています。

『人と猫との調和のとれたまちづくり(地域ねこ対策)パンフレット』


■「野良猫対策について」全国113自治体にアンケート調査

 平成25年度の行政収容施設における犬猫の殺処分数は136,029頭ですが、その内訳は、

 犬  29,383頭

 猫 106,646頭

 となっています。猫が約8割を占めており、特に半数を上回る6万頭以上は子猫であるという悲しい実態があります。殺処分となる猫、交通事故に遭ったり虐待されるなどして命を落とす猫の数を減らしていくためには、飼い主がいない猫(以下野良猫と記載)が増えてしまう構造的要因の理解が不可欠です。

 野良猫は、もともとは人間が飼っている猫やその子猫が捨てられたり、捨てられた猫が繁殖したものといわれています。また、人に飼われている猫であっても不妊去勢手術を施さずに屋外で「ネコ歩き」していたら、どのような事態を招くかは自明です。

 すでに増えてしまった猫については、不要なものとして排除するのではなく地域の問題と捉えて解決していこうという考えのもと、「地域猫対策」「飼い主のいない猫の対応」など(自治体によって名称は異なりますが)、問題解決にむけた連携協働の仕組みづくりが行われています。

 当会では、この野良猫対策に関する自治体の実態把握や公的支援状況について調査をおこない、次年度予算や施策展開に反映していただけるよう、回答を頂いた全自治体に集計結果を送付しています。


■野良猫の推定頭数の把握

 野良猫の推定頭数を把握しているのは、当会が調査対象としている113自治体のうち、4でした。

 野良猫対策としての地域猫活動の取り組みを行うにあたっては、まず実態を把握することが重要です。東京都では、行政職員が現地調査(屋外にいる猫の目視調査による猫の個体数推定調査)や住民ヒアリング・アンケートを実施、管轄内にどのくらいの野良猫が生息しているか実態把握を行っており、効果検証もされています。

東京都における猫の飼育実態調査の概要(平成18年度)

東京都における猫の飼育実態調査の概要(平成23年度)

 自治体により職員数・業務分担などが異なるため、本格的な現地調査が難しい場合もあるかもしれませんが、推定頭数を把握しておくと効果検証が可能になり、不妊・去勢手術助成制度の構築や予算の確保・拡充という観点からもメリットは大きいとみられています。(なお、当会調査対象113自治体以外の中核市において、実施計画様式を作成し、実施地域に生息する野良猫の推定頭数調査とその報告を地域猫活動ボランティアに協力をもとめる等して正確な地域情報を得ている自治体もありました。)


■野良猫の不妊去勢助成制度

 野良猫の不妊去勢手術に対して助成制度を設けている自治体は39ありました。年々増加傾向にあるものの、当会が調査対象としている113自治体では3割程度になります。

 また、助成制度を設けている自治体のうち、交付に制限を設けている自治体は37でした。助成制度は税金で成り立っており、適正な交付を行うための制限はやむを得ない部分はあるかもしれませんが、地域特性や活動に携わる当事者の事情に鑑みた配慮が求められます。

※環境省でも、『犬・猫の引取り等手数料及び不妊・去勢手術助成金(平成25年4月1日時点)』を公開されています。


■行政主体の野良猫対策の予算額

 野良猫の不妊去勢手術助成制度とは別に、行政主体の野良猫対策の予算が計上されている自治体は32(前年度24)でした。

 予算額は自治体によってばらつきがありますが、中央値は57万円となっています。


■これまでに不妊去勢手術を実施した頭数の把握

 野良猫対策やTNRを実施していくにあたって、野良猫の生息数の把握にあわせ、これまで何頭の猫に不妊去勢手術を実施してきたのか把握しておくことは重要です。

 しかし、「行政が主体となって実施した手術頭数」を把握している自治体は30、「民間が行った手術頭数」を把握している自治体は20に留まっています。

 動物愛護管理法は目指すべきゴールを「人と動物の共生する社会」と掲げており、環境省告示『動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針』においても、「殺処分率の減少に向けた更なる取組が必要」であるとして、その講ずべき施策に「平成35年度の都道府県、指定都市及び中核市における犬及び猫の引取り数について、平成16年度比75%減となる概ね10万頭を目指す。」と明記されています。

 依然として猫の持ち込み・殺処分率が高い現状を鑑みると、今後は犬と猫それぞれの目標を設定していくべきですが、「概ね10万頭」という目標をこれから達成しなければいけないなか、行政による実態把握や不妊去勢手術助成制度などの支援が追い付いていない状況です。

耳カットは不妊去勢手術済の証
耳カットは不妊去勢手術済の証
まだ目が見ていない子猫のケアも
まだ目が見ていない子猫のケアも

 この活動に携わる方々の長年にわたるご尽力、啓蒙活動などにより大きな成果を出された地域がある一方、行政担当者の理解度や人的資源、住民の意識、ボランティアの経験値などには地域差があるのも事実であり、ガイドライン通りにいかず苦慮されている方も少なくありません。

 猫の飼い主に「屋内飼育」「不妊去勢手術の実施」「身元の表示」が推奨されているように、あらたに不幸な命を生み出さないことが最重要ではありますが、少なくともボランティアの方々が生活を削って不妊去勢手術等にかかる費用を捻出している状況を変えていくためにも、官民三者協働から一歩すすんだ行政主体の支援体制構築が待たれます。

(ALIVE資料集No.37『平成25年度版全国動物行政アンケート結果報告書』より集計数値を引用)

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この連載について
from 動物愛護団体
提携した動物愛護団体(JAVA、PEACE、日本動物福祉協会、ALIVE)からの寄稿を紹介する連載です。
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