猫と人、長いつきあい エジプトでは女神、弥生中期に埋葬
今、空前の猫ブームなのだという。今年1月の発表によると、犬の飼育頭数約992万頭に対して猫が約987万頭と肉薄。№1ペットの座を覆す勢いだ。そんな猫と私たちはどんなふうに関わってきたのだろう。
猫と人間のつきあいは古代エジプトの時代に本格化した。イエネコの祖先はリビアヤマネコとされ、早稲田大学教授の近藤二郎さん(エジプト学)によると、猫は鳴き声から「ミウ」と呼ばれたという。
紀元前10世紀ごろ、猫は女神として崇拝されるようになる。大祭には70万人が集まったという記録も。「猫は聖なる動物でした。このため、ミイラにされ、専用の埋葬所に葬られたのです」と近藤さん。猫を飼う習慣は、やがてギリシャ人の手で世界へと広がる。
日本最古のイエネコの骨は「魏志倭人伝」にも出てくる一支国の推定地、長崎県カラカミ遺跡出土の弥生中期(紀元前3世紀)のもの。国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)はこの骨を検討して親子猫の生体模型を製作。2018年に常設展示で公開する。模型は母猫が白黒ぶち、子猫がキジ白。「当時は愛玩動物というよりネズミから穀物を守る益獣だったのでは」と同館副館長の藤尾慎一郎さん。
日本最古の猫の絵とされるのが平安時代の「信貴山(しぎさん)縁起絵巻 尼公巻(あまぎみのまき)」(22日まで奈良国立博物館で公開中)の黒白猫だ。一方、守護大名・河野氏の居城だった湯築(ゆづき)城跡(松山市、国史跡)からは猫の足跡つきの16世紀の皿が出土した。「乾かしている時に猫が歩いたのでしょう」と愛媛県埋蔵文化財センター調査係長の柴田圭子さん。
ただし猫は貴重だったせいか、基本的にはつないで飼われていたようだ。物語「猫のさうし」には、1602年に猫の綱を放つよう命じた高札が立てられた結果、ネズミが減った話が出てくる。
江戸時代、猫は浮世絵にも登場する。「従来は牡丹(ぼたん)や蝶(ちょう)と一緒に長寿の象徴として描かれることが多かった」と東京大学准教授の藤原重雄さん(日本中世史)。それが猫単体で描くことが広がり、「鼠(ねずみ)よけの猫」の絵などとして売り出されるようになっていく。
猫は人間をどう思っているのか。武蔵野大学講師の斎藤慈子(あつこ)さん(比較認知科学・発達心理学)によると、「みゃー」という鳴き声は猫同士では子が親に対してしか使われないことから、「飼い主を親のように思っている可能性が高い」という。「自分の名前も認識している。でも、無理に触るとストレスになるので気をつけてほしい」
作家、画家などのクリエーターには猫を飼っている人が多い。
その代表格が作家の大佛(おさらぎ)次郎(1897~1973)だ。「大佛は猫を『生活になくてはならない優しい伴侶』と言っています。黙って猫をなで、心を通わせることで、執筆中険しくなりがちな心を和らげていたのでは」と大佛次郎記念館研究員の安川篤子さん。
大佛は生涯に500匹以上の猫を世話した。その死後は、妻やお手伝いさんがかわって面倒をみたという。伴侶である以上、終生飼育は当然。猫ブームの今、あえて訴えたい。
(編集委員・宮代栄一)
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