普通名詞「猫」から個別の誰かに 見え方が変わると世界は輝く

(写真は本文とは関係ありません)
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 春で気温が変わりやすい時期にコンクリート造(づくり)の部屋にいると肌寒くて、厚着をしたまま外に出たら、思わぬ暖かさに驚くことがある。こんなに暖かったのか、と部屋にこもっていたのを後悔しながら歩くと、花が咲いて、鳥の声がする。黄色はヤマブキ、だみ声はオナガ。木が多い街に住むようになってから興味を持って、覚えた名前も増えたし、季節がめぐって久々に見かけるとうれしい。
 

 アレルギーがあるので子供の頃から猫に縁遠かった。あまり近づけないから、遠巻きに柄で区別するくらいで、「猫」というひとまとまり、どれも同じに見えていた。それが、この数年、周りに猫好きの人が多いのをきっかけに、猫に興味を持った。相変わらずあまり触れないが、写真や動画を見ていて突然、みんな顔が違う! と驚いた。全然違う。急に、普通名詞の「猫」から、どこの誰という感じに変わって、びっくりした。今では、ネットの画像で見た猫と友人の猫が似てるな、とか、この猫は目と目の間があいてるのがかわいいな、とか思う。見れば見るほど、おもしろい。大げさに言うと、世界の見え方が変わったのだ。
 

 以前、エスカレーターマニアの人のブログをみつけ、あまりに充実していて延々と見てしまった。手すり部分の型が違う、半円形のタイプでとてもめずらしいなどと、場所を添えて写真が並んでいる。熱のこもった解説に影響され、これは南港のインテックスにあるやつやん、船場センタービルのはパネルが珍しいのや、と感心しきり。外出すると、地下鉄の乗り換えでもビルの吹き抜けでも、エスカレーターに乗るのが楽しい。昨日と同じなのに、ちょっとわくわくする。興味を持つと世界は輝く。そう思った。
 

 そのきらきら感は、何日かすると慣れてしまうかもしれない。忙しかったり疲れていたりすると、そんな余裕もなくなる。だけど、その感じが薄れてもまた、ぶり返したりほかの興味が表れたりしてくれれば、なんとなくいいように日々を過ごせる。

 

(作家・柴崎友香)

朝日新聞
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